"身重の愛人を抱き起こした私" 第18話
「あ……あぁ……」
康平は絶望に目を剥き、震えるで万を握りしめた。 正雄叔父が徹な線で見ろす、康平は泣き叫びながら、指定されたすべての欄に自らの名をき殴り、指印を押した。
すべてが、終わったのだ。
私はテーブルのの緑の婚届を引き寄せ、自らの欄に署名し、朱肉をつけた印鑑をく、力く押し込んだ。
カチリと、の呪縛が解ける音が、胸の奥で確かに響いた。
◇
い玄関ドアをけ、へ踏みす。
晩のたく乾いたが、照った頬をよく撫でていった。 背からは、義母の狂乱した泣き声と、康平の呻き声がさく漏れ聞こえていたが、ドアが閉まった瞬、それらは完全に遮断された。
見げれば、ひとつない、どこまでも突き抜けるような青空が広がっていた。
「由さん、お疲れ様でした」
先が隣にち、穏やかな笑みを浮かべた。
「完璧な幕引きでしたね。これで産の処分と債権回収は、すべて法に私のでめられます。もうあのたちと直接顔をわせる必はありませんよ」
「ありがとうございました、先輩。本当にお世話になりました」
私が々とをげると、先は「仕事ですから」と肩をすくめ、先にタクシーを拾うために通りへと歩いていった。
敷のの垣の脇に、葵がで佇んでいた。
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寒そうにコートの襟をかき抱き、私がてくるのを待っていたようだった。
私がづくと、葵はびくりとを張らせ、々とをげた。
「……奥さん」
その声はさく、消え入りそうだった。
「私……本当に、取り返しのつかないことをしました。奥さんを傷つけて、庭を壊そうとして……本当に、申し訳ありませんでした」
葵の目から、ぽろぽろと涙が溢れ落ち、舗装されたアスファルトを黒く濡らしていく。 それは、自らの愚かさと、これから背負っていく現実のみに打ちのめされた、本物の涙だった。
私は、彼女を抱きしめたりはしなかった。 優しい言葉をかけて、罪を許してやる気もなかった。 私たちは友でもなければ、を取りって笑いえる仲でもない。 ただ、の無責任な男の欺瞞によって交差し、互いの尊厳を守るために共闘した、それだけの関係だった。
「謝罪は受け取りません」
私の淡な声に、葵は涙に濡れた顔をげた。
「あなたのしたことは、決して消えない。私も、あなたを許すことはないわ」
葵は唇を噛み締め、痛ましそうに俯いた。
「でも」
私は葵のお腹のあたりに、線を落とした。
「その子は、まれ育つ権利があるわ。あの男からむしり取れる養育費は、先を通じて円残らず回収しなさい。……母親になるんでしょう。しっかりを向きなさい」
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葵は息を呑み、両でお腹をく抱きしめた。 そして、今度は涙を拭い、しっかりと私の目を見つめ返した。
「……はい。私、絶対に……この子を育てげます」
「ええ。さようなら、さん」
「……さようなら。ありがとうございました」
言、言のい言葉。 それ以、交わすべき言葉は何もなかった。 私たちは互いに背を向け、別々の方向へと歩きした。 カツカツとアスファルトを鳴らす彼女の音は、度と私のと交わることのない、い世界へと消えていった。
◇
そのの彼らの辿ったは、先からの定期な報告によってることとなった。
康平が勤務していた堅商社には、融業者からの督促が殺到し、さらに社内倫と銭トラブルの事実がるみにたことで、事実の懲戒免職となった。 退職は借の返済で消しび、残った額の債務を理するため、自己破産の続きが取られた。 だが、公正証によって確定させた葵への養育費の支払い義務だけは、法律免責されることなく、彼がどんな底辺のアルバイトに就こうとも、与の部が自に差し押さえられる活が続くという。
あのいの詰まった戸建ては、任売却によって競売を免れた。 売却代のから、私の固財産であった百万円と解決は、最優先で私の個座へと全額返還された。
む所を失った義母は、本の親戚たちからも完全に絶縁され、郊の古い造アパートで、細々としただけを頼りに暮らしを始めたそうだ。