"義母が遺した二十年の通帳" 第7話
の顔から、先ほどまでの寒さや苛ちのが消え失せ、代わりにどす黒い興奮と骨な揺が広がっていくのが分かった。
浩は通帳を胸元に引き戻すと、鬼のような形相で私を睨みつけた。
「おい、由美! 黙ってないで説しろ! なんでお袋がおにを渡してたんだ! これは族のだろ! なんでおがネコババして、涼しい顔して隠してたんだよ!」
唾をばしながら迫ってくる夫の姿を、私はめた目で見つめていた。
の切れた部の空気は、吐く息がくなりそうなほどたい。 だが、この胸の底に抱え続けてきた氷の塊に比べれば、この程度の寒さなど何でもなかった。
私は散らばった類を瞥もしないまま、ゆっくりと浩のに歩みた。
「浩さん」
「あ?」
「汚いで、それに触らないでください」
私の声は、自分でも驚くほど静かで、平坦だった。 鳴るわけでもなく、弁解するわけでもない。 ただ、に汚れたを拾いげるような、完全な拒絶の響き。
浩が瞬だけ気圧されたようにずさりした隙に、私は夫のからその緑の通帳を、鮮やかに抜き取った。
「あっ、おい!」
「返せよ! なに勝に隠そうとしてんだ!」
と浩が同に声をげたが、私は通帳を胸元に抱き込み、しっかりと両で押さえた。 表に貼られたの保護フィルムの角が、しだけ擦れてくなっている。
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、私が毎、命やお盆がづくたびに引きしの奥から取りし、指先で撫でては元の所に戻していた通帳。
「ここでは寒すぎます」
私はを見据えたまま、落ち着いた調で言った。
「階のリビングへりましょう。ガスが止まって寒いのは同じですが、なくともあそこなら、皆さんが納得するまでお話しできますから」
私がを翻して部をると、は顔を見わせ、まるで獲物を逃すまいとする獣のような取りで私のろについてきた。
リビングの井灯が、殺景な部を々と照らししていた。
テーブルのには、昨夜がべた牛丼の空き容器と、真奈が放置したカフェラテのカップがそのまま置かれている。 部全体に、ゴミの微かな饐えた匂いと、気が澱んでいた。
私はダイニングテーブルの真んに、緑の通帳を置いた。 表の『サトウ ユミ』という文字が、照を浴びて静かに浮かびがる。
は通帳を囲むようにして子を引いた。 全員の線が、切れ枚に注がれている。 その差しには、隠されたへの浅ましい執着と、「母親を問い詰める正当な理由をに入れた」という歪んだ揚が滲みていた。
沈黙を破ったのは、浩だった。
ドン、と拳でテーブルを叩いた。
「さあ、吐け。これは体何のだ」
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浩は腕を組み、尋問官のような尊な態度で私を見ろした。
「お袋が毎万、も払い続けてた。お、まさかお袋を脅してを巻きげてたんじゃないだろうな? 認症になったのをいいことに、勝に振り込ませてたんじゃないだろうな!」
「お義母さんが倒れたのはです」
私はじることなく答えた。
「この振り込みが始まったのは。浩さん、あなたがまだ代半で、が歳、真奈が歳だった頃です。のお義母さんが、誰かに脅されておを振り込むようなに見えましたか?」
私の言葉に、浩は瞬言葉を詰まらせた。 くなった義母・静は、昔気質の芯のい女性だった。 曲がったことが嫌いで、筋の通らないことには内であっても容赦なくを落とすだった。 誰かに脅されてを渡すなど、あり得ないことくらい、息子の浩が番よくっているはずだった。
すると今度は、真奈が切り声をげた。
「じゃあ、お当ってこと?! 政婦代ってことじゃない! おばあちゃん、お母さんに隠れてお遣いあげてたんでしょ! なんでそれを黙ってたのよ!」
真奈の瞳には、激しい嫉妬と憤りが燃えていた。
「百万円もあったなら、なんで私の留学のにしてくれなかったの?! 私、のにカナダにきたいって言ったじゃん! あのお母さんなんて言った? 『うちにはそんな余裕ないのよ、ごめんね真奈』って、泣きそうな顔して断ったじゃない! あれ全部嘘だったわけ?!」