"義母が遺した二十年の通帳" 第19話
婚姻を継続し難いな事由として、分すぎる証拠が揃っています。裁判になれば、あなたは額の慰謝料を支払うことになりますよ。……どちらがあなたにとって得か、よくお考えになった方がよろしいかといます」
浩は喉をゴクリと鳴らし、テーブルのの緑のを見つめたまま、言葉を失った。 逃げは、最初から筋も残されていなかったのだ。
その、リビングの入りで、かすかな擦れの音がした。
振り返ると、真奈が涙で顔をぐしゃぐしゃにしてっていた。 階からは、も力なく階段をりてきていた。
「お母さん……」
真奈が、震える声で私を呼んだ。 そのまま駆け寄ってくると、私の腕にすがりついてきた。
「かないで……お母さん、お願いだからかないでよ! 私、悪かった! お母さんのこと召使いみたいに扱って、偉そうなこと言って、本当にごめんなさい! 私、洗濯もお母さんの言う通りに畳むから! お母さんがいないと、私、どうしていいか分からないよ……!」
歳になる娘が、まるで幼子のように泣きじゃくっていた。 その体温が、私の腕を通して伝わってくる。
続いて、も私のに歩みた。 かつての気な態度は消え失せ、唇を噛み締めながら、懇願するように私を見つめていた。
「母さん……俺も、調子に乗ってた。佐藤のだとか、遺留分だとか……浅ましいこと言って、本当に悪かったよ。
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……でもさ、族だろ? 度の失敗で、全部捨てることないじゃないか。俺、これからは毎ちゃんと活費を入れるよ。初任の取りから、万……いや、万入れるからさ。だから、もう度やり直そうよ」
の子供の、必の涙。
かつての私なら、この涙を見た瞬に胸を痛め、「ごめんね」と謝り、すべてを許して元の活に戻っていただろう。 子供たちの笑顔のためなら、自分の命などいくらでも差しせると信じて疑わなかったからだ。
だが、今の私のには、さざ波つたなかった。
私は真奈の肩にそっとを置き、自分にしがみつく娘の腕を、ゆっくりと解いた。
「真奈」
「お母さん……」
「あなたは、もう歳のです」
私の声は、どこまでも優しく、そしてどこまでもたかった。
「自分のを自分で洗い、自分の部を自分で片付け、自分の活を自分で支える。それは誰かのためにしてあげることではなく、としてきていくための最限の営みです。それを今まで教えずに、すべて先回りして奪ってしまったのは、母親である私の落ち度でした」
真奈がハッと息を呑む。
「も同じです。おを入れれば誰かが自分の面倒を見てくれるという考え方そのものが、父親の傲さと同じなのよ。あなたたちはとも、もう派な社会であり、成です。
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自分のでち、自分のの始末を、自分でつけなさい」
「母さん……見捨てるのかよ? 俺たちを……自分の子供を、捨てるのか?!」
が絶望に満ちた声を張りげた。
「見捨てるのではありません」
私はの目を見つめ、静かに微笑んだ。
「放すんです。私は今、あなたたちの母親を引退します」
その言葉に、真奈は力なくへへたり込み、は固まったようにかなくなった。
私は踵を返し、廊の奥の自分の寝へと向かった。
部の隅には、昨夜のうちにパッキングを済ませておいた、型のスーツケースがつだけ置かれていた。 に入っているのは、着慣れた数着の普段着と、着、実の母の形見のブローチ、そしての回りの最限の用品だけ。 このに暮らして、私が自分の私物と呼べるものは、たったスーツケースつ分しかなかった。
私はコートを羽織り、マフラーを首に巻いた。 内ポケットには、あの緑の通帳が、ずっしりとしたみを持って収まっている。
リビングに戻ると、は誰としてけないまま、呆然と私を見ていた。 浩はに座り込み、はち尽くし、真奈はしゃくりげていた。
私は彼らに向かって、く、度だけをげた。
「、お世話になりました。蔵庫の私の材は置いていきます。
費の請求は玄関のトレイにありますので、期までに支払ってください。