"息子の捜索地図を消す男" 第7話
玄関の鍵を閉める音が、静まり返ったに鋭く響く。
自転のスタンドを払い、ペダルにを乗せた。 目はの旧堤だ。 自宅からまっすぐすれば、農を通って分ほどで着く。 まだボランティアの集である午までは以ある。今なら誰にも見られずに現を確認できるはずだった。
湿った朝の空気を吸い込みながら、私はを抜けて農の入りへと急いだ。 刈り入れを控えた田んぼがに広がり、いの向こうに、黒々としたの稜線がぼんやりと浮かんでいる。
舗装が途切れ、砂利に差し掛かった。 ここを曲がれば、旧堤へと続く本だ。
「――遥さん!」
の向こうから、鋭い声がんできた。
臓が喉までねがり、私は咄嗟にブレーキを握りしめた。 濡れた砂利ので輪が横滑りし、危うく倒れそうになる。
農の分岐点、背のいススキの茂みのから、原付自転が台、エンジン音を響かせて現れた。 カゴに黄い防犯パトロールのプレートをつけたカブだ。
乗っていたのは、荒さんだった。 自治会の副会で、野寺さんの幼馴染でもある代の男性だ。 蛍のたすきをかけ、首にはホイッスルをぶらげている。
「やっぱり遥さんだ。こんな朝くから、どこへこうとしてるんだい」
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荒さんはバイクを止め、審そうに眉を寄せて私を見た。
「……荒さん。どうして、ここに」
「どうしてって、パトロールだよ。会から連絡があったんだよ。『遥さんが取り乱して、危険な所にひとりでびしかねない。朝の見回りを化して、もし見かけたら絶対に止めてくれ』ってな」
の芯が、すっとたくなっていくのをじた。
見回り。 私を、見張っていたのか。
「昨の夕方も、野寺会に無茶を言ったらしいじゃないか。川沿いにかせてくれって」
荒さんはため息をつきながら、バイクのスタンドをてた。 その顔には、悪など片もない。 ただ、困った内を配するような、純然たる善と義務だけが張り付いていた。
「あそこは危ないって、会からも聞いただろう。増はしてないが、昨のでぬかるんでる。母親のおが怪でもしたら、悠くんが泣くぞ」
「私は……ただ、チラシを。コンビニにって、コピーを取ろうと……」
「コンビニなら駅だろう。なんでの農へ入るんだ」
荒さんの線が、私のリュックサックに向けられた。 言い訳が喉につかえる。 このたちは、町を守るためにいている。 野寺さんの指示を、分の疑いもなく信じて、完璧に遂しているのだ。 この包囲網を、力づくで突破することなど能だった。
「ほら、戻りなさい。
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公民館で炊きしの準備が始まってる。温かい豚汁でもんで、の集まりを待つんだ。会ももうすぐ来る」
荒さんは優しく、だが切の反論を許さないつきで、私の自転のハンドルを掴み、方向をぐるりとへ向けさせた。
「……はい」
私は俯き、震える唇を噛んだ。
「すみません。ご迷惑をおかけしました」
「わかればいいんだよ。みんな配してるんだからな」
荒さんは満そうに頷き、カブのエンジンをふかして私のろをついてきた。 まるで、迷子になった畜を群れへ連れ戻す羊飼いのように。
私はペダルを漕ぎながら、背に浴びせられる善の線に、吐き気を催していた。 この町は、野寺さんの庭だ。 彼の敷いたレールかられようとする者は、こうして無邪気な親切によって、やすやすと軌修正されてしまう。
旧堤にづくことは、今の私にはできない。 真正面からけば、必ず誰かに見咎められる。
ならば、どうする。 息子のがかりは、本当にあの川だけなのか。
野寺修というそのものを洗わなければ、何も始まらないのではないか。
◇
午分。 公民館の駐には、すでに数台の軽トラックと乗用が集まっていた。
婦会の々が鍋で豚汁を作り、ばしい噌の匂いが朝の気のに漂っている。
私は言われた通り、パイプ子に座ってコップの豚汁を両で包んでいたが、も喉を通らなかった。
「おはようございます!」