みかん小説
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"息子の捜索地図を消す男" 第11話

「……誰も、見ていないと……言っていました」

私の声は、音にかき消されそうなほどかすれていた。

だが、野寺さんのには届いていた。 彼はに片をかけた姿勢のまま、ぴたりときを止めていた。 に持った傘の先から、濁った滴がぽたぽたと(たたき)に落ちる。 暗い玄関ので、野寺さんの輪郭だけが異様に濃く、く張り詰めていた。

「遥さん」

数秒の沈黙の、彼がいた。 その声はいつもと変わらずく、穏やかだった。だが、先ほどまでの慈に満ちた温度は、綺麗に抜け落ちていた。

「君がなぜ、ここにいるんだい」

私は指先の覚が麻痺していくのをじていた。 の指は、駄箱の隅にある黄いプラスチック――悠のランドセルから千切れたクマのマスコットに触れたままだった。

見られただろうか。 私がこれを直していたことを、野寺さんは気づいただろうか。

臓が鐘を打ち、喉の奥が引き攣る。 私は咄嗟にを引き戻し、袖でマスコットを覆い隠すようにして、胸元に抱えていたタッパーを両に突きした。

「……渡辺さんに、頼まれたんです」

声が震えないよう、舌の根にありったけの力を込めた。

「お孫さんが、して寝込んでいらっしゃると聞きました。会はお忙しくて朝ごはんも作れていないだろうから、せめてこれを届けてあげてほしいと……」

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野寺さんの線が、私の顔から、差しされたタッパーへとゆっくり移した。 透なプラスチックの蓋越しに、いラップで包まれた梅干しのおにぎりが見えている。

「渡辺さんが」

「はい。勝にでも置いていくつもりだったんですが、鍵がいていたので……声をかけても返事がなくて、配になってを覗いてしまいました。申し訳ありません」

嘘を並べながら、私は元ので、の指先を滑らせた。 野寺さんがタッパーに線を落としたほんの瞬。 私は袖に隠したマスコットを、ウインドブレーカーのポケットの奥くへと押し込んだ。

カサリ、と鍵のトレイが微かな音をてた。 野寺さんの眉が、ほんの数ミリだけいた。

「……そうか」

野寺さんはがり、私のからタッパーを受け取った。 その指先が私の親指の爪に触れた。氷のようにたかった。

「渡辺さんには余計な気を使わせてしまったな。君にも、こんなことまでさせてすまない」

野寺さんはタッパーを駄箱のに置き、廊の奥へと鋭い線を投げた。

「拓

く、押し殺した声だった。 奥の暗がりで、壁に背を押し当てていたが、びくりと肩をねさせた。

「おがあるんだろう。寝ていなさいと言ったはずだ。なぜ起きてきた」

「……ごめん、なさい」

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くんの声は掠れ、消え入りそうだった。 包帯の巻かれた両体のろに隠し、幽霊のようにふらふらと奥の襖の向こうへ消えていく。 その取りは、病のそれというより、処刑を待つ罪のそれだった。

野寺さんは孫のろ姿を見送ることもせず、ふたたび私に向き直った。 その顔には、いつもの完璧な「自治会」の笑みが張り直されていた。

「遥さん、ちょうどよかった。君に伝えておかねばならないことがある」

「……何でしょうか」

「今の夕方、公民館で臨の役員会をくことになった」

野寺さんはポケットから濡れたハンカチを取りし、几帳面に指先のを拭った。

「警察の捜索本部とも話しったんだがね。……今で丸だ。これ以般のボランティアを員し続けるのは限界がある。町内の農作業も止まっているし、寄りたちの体力も持たない。今夜の会議で、自治会としての捜索活はいったん打ち切り、以は警察の専従班に任する方向で話をまとめるつもりだ」

を鈍器で殴られたような衝撃だった。

打ち切る? 民捜索を、今で終わらせる?

「そんな……野寺さん、まだたったのです! あの子はまだ、どこかで待っているかもしれないのに!」

「警察がを引くわけじゃない」

野寺さんの声は淡なまでに静かだった。

「プロに任せるということだ。素勢で野を歩き回れば、かえって痕跡を消してしまうこともある。

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