みかん小説
本棚

"息子の捜索地図を消す男" 第13話

臓が鐘を打った。 チャンスは、野寺がのこの数しかない。

私は音を忍ばせ、ふたたび野寺をくぐった。

は完全にがり、の切れからぬるいの陽射しが差し込んでいた。 庭の松のから落ちる滴が、ぽつり、ぽつりと敷を濡らしている。

玄関の引き戸のち、呼吸をつした。 鍵は、かかっているはずだった。 先ほど野寺自から閉めたのだ。

だが、私は玄関を迂回し、濡れた庭を伝って勝へと回った。 古いの勝には、製の格子戸とガラス窓がついている。 案の定、勝の鍵は閉まっていたが、台所の換気扇の横にあるさな窓が、換気のために数センチだけ細くけられていた。

私はウインドブレーカーのポケットから、捜索用にと持っていた針ハンガーの切れ端を取りした。 先端を鍵型に曲げ、窓の隙から差し込む。 探りでクレセント錠のレバーを探る。 カチャリ、と属音が響き、窓枠が緩んだ。

音をてないよう慎にサッシをスライドさせ、私はを屈めて台所へと滑り込んだ。

は、なほど静まり返っていた。 漂ってくるのは、やはりあの消毒液の薬品臭と、古びた畳の埃っぽい匂いだけだ。 奥の部からは、寝たきりの奥さんの規則正しい、微かな寝息だけが聞こえていた。

広告

私は靴を脱ぎ、裸になって廊の板張りを踏みしめた。 の裏に、古いワックスのたさが吸い付く。

玄関の方から、ガサゴソと何かが擦れる音が聞こえた。

私は息を殺し、廊の角から玄関を覗き込んだ。

そこに、拓くんがいた。 彼は玄関のにしゃがみ込み、黒いゴミ袋のに何かを必に詰め込んでいた。 その元には、だらけのいスニーカーと、血と黄い消毒液の染みついた量の包帯の切れ端があった。 袋のを縛る彼のは激しく震え、結び目が何度も解けていた。

隠蔽しようとしている。 自分の痕跡を、すべて消しろうとしているのだ。

私は音もなく廊み、彼の背った。

「拓くん」

く、鋭く呼びかけた。

「――っ!?」

くんががるように振り返った。 その顔は血の気を完全に失い、目を剥かんばかりに見かれていた。 持っていたゴミ袋がから滑り落ち、から丸められたガーゼが転がりる。

「な、なんで……鍵は閉めたはず……」

「悠はどこ?」

私はを押し殺し、歩踏みした。 逃げを塞ぐように、勝へ続く廊と玄関の框(かまち)の体を滑り込ませる。

「悠はどこにいるの。答えなさい」

「し、らない……! 僕は何にもらない! 帰ってください、法侵入だ、警察を呼ぶぞ!」

くんは半狂乱になって叫び、から框へがって私を押しのけようとした。

広告

その細い肩が私の胸にぶつかる。

私は怯まなかった。 突きばされそうになりながら、彼の腕を――何にも包帯が巻かれた、その痛々しい首を、両で力任せに掴みげた。

「痛っ……! やめろ、せ!」

くんが鳴をげた。 包帯の隙から、赤黒い血がじわりと滲みる。 激痛に顔を歪めるの瞳に、私は自分の顔が鬼のように映っているのを見た。 普段の私なら、の子どもにこんな乱暴な真似は絶対にできなかった。 だが今の私には、息子の命以のすべてがどうでもよかった。

「痛い? これくらい、悠の痛みに比べたら何でもない!」

私はポケットから、あの黄いクマのマスコットを掴みし、彼の目のに突きつけた。

「これを見ても、まだらないって言うの!? 悠のランドセルから千切れたのよ! あなたの部のゴミ袋にも、悠の持ち物が入っているんじゃないの!?」

「違う……! それは……拾ったんだ……!」

「嘘をつかないで!」

私は彼を壁に押しつけ、逃げを完全に塞いだ。

「今すぐ悠の居所を言わないなら、私はここから歩もかない! 町をここに呼ぶわ! 渡辺さんも、荒さんも、学の先も全員呼んで、県に通う野寺会の自のお孫さんが、腕にをしての遺留品を隠しているって、こので叫んでやる!」

「やめてくれ……っ!」

くんの喉から、掠れた絶叫が漏れた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: