"息子の捜索地図を消す男" 第13話
臓が鐘を打った。 チャンスは、野寺がのこの数しかない。
◇
私は音を忍ばせ、ふたたび野寺のをくぐった。
は完全にがり、の切れからぬるいの陽射しが差し込んでいた。 庭の松のから落ちる滴が、ぽつり、ぽつりと敷を濡らしている。
玄関の引き戸のにち、呼吸をつした。 鍵は、かかっているはずだった。 先ほど野寺自がから閉めたのだ。
だが、私は玄関を迂回し、濡れた庭を伝って勝へと回った。 古い本の勝には、製の格子戸とガラス窓がついている。 案の定、勝の鍵は閉まっていたが、台所の換気扇の横にあるさな窓が、換気のために数センチだけ細くけられていた。
私はウインドブレーカーのポケットから、捜索用にと持っていた針ハンガーの切れ端を取りした。 先端を鍵型に曲げ、窓の隙から差し込む。 探りでクレセント錠のレバーを探る。 カチャリ、とい属音が響き、窓枠が緩んだ。
音をてないよう慎にサッシをスライドさせ、私はを屈めて台所へと滑り込んだ。
のは、気なほど静まり返っていた。 漂ってくるのは、やはりあの消毒液の薬品臭と、古びた畳の埃っぽい匂いだけだ。 奥の部からは、寝たきりの奥さんの規則正しい、微かな寝息だけが聞こえていた。
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私は靴を脱ぎ、裸になって廊の板張りを踏みしめた。 の裏に、古いワックスのたさが吸い付く。
玄関の方から、ガサゴソと何かが擦れる音が聞こえた。
私は息を殺し、廊の角から玄関を覗き込んだ。
そこに、拓くんがいた。 彼は玄関のにしゃがみ込み、黒いゴミ袋のに何かを必に詰め込んでいた。 その元には、だらけのいスニーカーと、血と黄い消毒液の染みついた量の包帯の切れ端があった。 袋のを縛る彼のは激しく震え、結び目が何度も解けていた。
隠蔽しようとしている。 自分の痕跡を、すべて消しろうとしているのだ。
私は音もなく廊をみ、彼の背にった。
「拓くん」
く、鋭く呼びかけた。
「――っ!?」
拓くんがねがるように振り返った。 その顔は血の気を完全に失い、目を剥かんばかりに見かれていた。 持っていたゴミ袋がから滑り落ち、から丸められたガーゼが転がりる。
「な、なんで……鍵は閉めたはず……」
「悠はどこ?」
私はを押し殺し、歩踏みした。 逃げを塞ぐように、勝へ続く廊と玄関の框(かまち)のに体を滑り込ませる。
「悠はどこにいるの。答えなさい」
「し、らない……! 僕は何にもらない! 帰ってください、法侵入だ、警察を呼ぶぞ!」
拓くんは半狂乱になって叫び、から框へいがって私を押しのけようとした。
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その細い肩が私の胸にぶつかる。
私は怯まなかった。 突きばされそうになりながら、彼の腕を――何にも包帯が巻かれた、その痛々しい首を、両で力任せに掴みげた。
「痛っ……! やめろ、せ!」
拓くんが鳴をげた。 包帯の隙から、赤黒い血がじわりと滲みる。 激痛に顔を歪めるの瞳に、私は自分の顔が鬼のように映っているのを見た。 普段の私なら、の子どもにこんな乱暴な真似は絶対にできなかった。 だが今の私には、息子の命以のすべてがどうでもよかった。
「痛い? これくらい、悠の痛みに比べたら何でもない!」
私はポケットから、あの黄いクマのマスコットを掴みし、彼の目のに突きつけた。
「これを見ても、まだらないって言うの!? 悠のランドセルから千切れたのよ! あなたの部のゴミ袋にも、悠の持ち物が入っているんじゃないの!?」
「違う……! それは……拾ったんだ……!」
「嘘をつかないで!」
私は彼を壁に押しつけ、逃げを完全に塞いだ。
「今すぐ悠の居所を言わないなら、私はここから歩もかない! 町のをここに呼ぶわ! 渡辺さんも、荒さんも、学の先も全員呼んで、県の学に通う野寺会の自のお孫さんが、腕に怪をして学の遺留品を隠しているって、このので叫んでやる!」
「やめてくれ……っ!」
拓くんの喉から、掠れた絶叫が漏れた。