"息子の捜索地図を消す男" 第15話
「んでなかったんだ」
拓くんが言った。
「隣町の、独り暮らしのおじいさんだったらしい。を打って気絶してたけど、息はあった。おじいちゃんは、そのを自分の軽トラに乗せて、隣町の総病院の夜救急へ運んだんだ。『自分が夕方の見回りをしているに、斜面からを滑らせて倒れているのを発見した』ことにして……」
背筋が凍りついた。 救助者。 野寺は、自分が撥ねた被害者を「たまたま見つけた親切な発見者」として病院へ届けていたのだ。 そうすれば、轢き逃げ事件として警察が捜査することはない。 ただの齢者の単独転倒事故として処理される。
「でも、悠くんがいる」
拓くんの声が、絶望に震えた。
「悠くんがに帰って、『バイクに乗った拓のお兄ちゃんが、おじいさんを撥ねて逃げた』って言ったら、全部の泡になる。おじいちゃんのついた嘘も、僕の事故も、全部バレる……」
だから、野寺は戻ったのだ。 あの旧堤の、ポンプへ。
そこには、恐怖で震えながら隠れていた悠がいた。 野寺は、泣きじゃくる悠に優しい笑みを浮かべてづいたはずだ。 『悠くん、怖かったね。怪はないかい。お母さんには私から連絡してあげるから、の警察が来るまで、危ないからここに入っていなさい』
そう言って、野寺は悠を誘い込んだ。
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「……どこに」
私は拓くんの胸ぐらを掴みげた。界が真っ赤に染まっていた。
「悠を、どこに閉じ込めたの!」
「ポンプの……の、位観測だ……!」
拓くんは泣き叫びながら状した。
「昔、川の氾濫を見るために使ってた、コンクリートの……から鉄の扉を京錠で閉めたら、子どもの力じゃ絶対にかないんだ。おじいちゃんはあそこに悠くんを閉じ込めて、夜にゼリーやパンを運んでた……!」
すべてが繋がった。 あのきの捜索記録。 初の午――事故が起きる直のから「捜索完」とき込まれていた自然さ。 あれは、事故のに辻褄をわせるため、野寺が過の記録ごとき換えていたのだ。
警察犬やボランティアをのへ誘導したのも、すべてはを稼ぐためだった。 がり、現のアスファルトに残ったバイクのタイヤ痕と血液が完全に洗い流されるまでの。 病院に運ばれた老の識が混濁し、事故当の記憶が曖昧なまま「単なる転倒」として片が付くまでの。
野寺修は、孫の将来と、自らが築きげた「名士」としての名誉を守るためだけに、全町民を巻き込んで巨な茶番劇を演じ、私の息子を暗のに閉じ込め続けていたのだ。
「許せない……」
奥歯が砕けそうなほど噛みしめた。 涙などなかった。
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ただ、胸ので酷な殺が渦を巻いていた。
「今すぐきなさい。鍵をけて、悠をしなさい!」
「む、無理だよ……!」
拓くんは首を激しく振った。
「鍵は……京錠の鍵は、おじいちゃんが持ってるんだ! 僕じゃけられない! それに……それに、阿姨(おばさん)、もうがないんだ……!」
「がない? どういうこと!?」
拓くんは恐怖に見かれた目で、玄関の壁に掛けられたカレンダーを指差した。
「の朝なんだ……! の朝、県の川管理事務所が、旧堤の底に溜まった砂を流すために、流の調池のを斉放するんだよ……!」
血の気が、瞬で引いた。
「放……?」
「の定期点検なんだ……! あの旧堤は普段はがないけど、放が始まったら、数ぶりに濁流が流れ込むんだ……! ポンプの観測は、排溝と直結してるから……がいたら、が逆流して、もしないうちに井まで没する……!」
息が止まった。 井まで、没する。
「おじいちゃんは……おじいちゃんは言ってた。『今夜の役員会で捜索を打ち切らせたら、夜に悠くんをに乗せて、隣町の駅のくに置きりにする』って……『そうすれば、迷子になってくまで歩いてったように見える』って……」
拓くんは喉をひくつかせながら、に額を擦り付けた。
「でも僕、怖いんだ……おじいちゃん、本当に悠くんを逃がすのかな……もし、悠くんが喋るのを恐れたら……そのまま、の朝の放で……」
それ以は、聞くに堪えなかった。
像しただけで、発狂しそうだった。