"母の通帳に記された450円の謎" 第4話
数回のコールの、彼女の嫌そうな声が響いた。
「もしもし? お母さん、朝から何のようですか? 忙しいって言ったでしょう」 「ごめんなさい、さん。実はタンスのに置いてあった古い菓子箱が見当たらなくて、昨あなたが掃除をしてくれたにどこかへかさなかったかしらとって……」
私は精杯角がたないように言葉を選んだけれど、私の言葉が終わるか終わらないかのうちに、受話器の向こうでたい笑い声が聞こえた。
「はあ? そんなゴミみたいなもの、私が触るわけないじゃないですか。そんなことのためにわざわざ話してきたんですか?」 「ゴミだなんて……あのには私の葬儀のための切な蓄えが入っていたのよ。100万円あったはずなの……」
私が声を押し殺してそう告げるた瞬、さんの声が変した。
「はあ? 100万円? お母さん、私を疑っているんですか? を棒扱いするなんて、いい度胸ね!」
彼女の声はりに震え、鋭い刃物のように私を突き刺した。
「そんなつもりじゃ……ただ、どこにったかっていればとって……」 「いい加減にしてください! を棒扱いするなんて、ボケたんじゃないの? 怖いわ、自分の物忘れを棚にあげて嫁を犯にするなんて。これだから寄りは嫌なのよ。健さんにも言っておきますからね、お母さんのがいよいよおかしくなったって」
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方に話を切られ、「ツー、ツー」という音がの奥で鳴り響く。私は力なくそのに崩れ落ちた。
ボケた。がおかしくなった。彼女の放った言葉が、暗い部のにいつまでも残像のように漂っている。
私は本当に私の勘違いなのだろうか。自分でどこか別の所へ隠して、そのことを忘れてしまったのだろうか。
私はもう度縋るようにして部をひっくり返した。押入れの奥の奥までをめ、畳の隙まで確認したけれど、やはりどこにもない。
「お父さん、私本当におかしくなってしまったの……?」
暗ので、私は自分の記憶を疑い始めた。昨までの私は確かにあの所に箱があるのを確認していたはずだ。けれど、さんにこれほどく言われると、自信が砂のように崩れ落ちていく。
もし私が本当にボケ始めているのだとしたら、誰に相談すればいいのだろう。健に話しても、さんから「がおかしくなった」と聞かされているあの子は、私の言葉を信じてくれるだろうか。
迷惑をかけたくないとあれほど願っていたのに、私はそのものが迷惑なボケた老婆になりがってしまったのではないか。
窓のから吹き込む隙が私の背を凍らせるけれど、今の私にはを入れる気力さえ湧かなかった。切な箱を失い、自分の正気さえも失いかけている。
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私は誰にも助けを求められないまま、孤独という名のいのに1取り残されてしまった。
夕暮れ、窓のではたいが音もなく静かにり積もっていた。アパートの部のはと同じくらいえ切っている。私は3枚目のダウンジャケットの襟をかき寄せ、古びた毛布をからかぶった。けれど、体の芯からいがってくる震えは向に止まらない。それ以に胃の奥が焼けつくように痛み、識がざかっていく。
最にまともな事をしたのは体いつだっただろうか。3か、あるいは4か。台所の隅にある、もう入れもできなくなったぬかの底をいくら探っても、に入れられるものは何ひとつ残っていない。
「このままじゃ、本当にお父さんのところへってしまうわね……」
私はのの夫に々しく語りかけたけれど、ぬことさえ今の私には贅沢なことにえた。100万円を失い、葬儀代もせない。今の私がんでしまったら、健にな銭負担をかけてしまう。それだけは何があっても避けなければならない。あの子の幸せを壊すことだけは、母親として絶対に許されないことなのだ。
「茂蔵さんのところへこう……売り物にならない野菜でもいい、何か、何かお腹に入れなければ……」
私は震えるで使い古した杖を握りしめた。
茂さんは所で百を営んでいる、き夫の古い友だ。