"全員が揃えた同じ嘘" 第1話
実の階にある、かつて私の子供部だったの畳のには、ガムテープで底を留めた段ボール箱がつ並んでいた。
窓のでは、のぬるい湿気を含んだが、庭の古い柿のの葉をざわざわと揺らしている。 来、この築を越える造宅は解体される。それにわせて、私が通っていた緑ヶ丘学の旧舎も、耐震基準のと統廃を理由に、によって取り壊されることが決まっていた。
「律、押し入れの袋にあるもの、全部ろしたからね。いるものと捨てるもの、今に分けて頂戴」
階から母のし掠れた声が響いた。 歳になり、隣町の区役所で戸籍課の事務員として働く私――佐久律は、埃で喉を鳴らしながら「わかった」とく返事をした。
元にあったのは、学の頃に使っていた文具やノートを適当に詰め込んだプラスチックのコンテナだった。 褪せたプラスチックの蓋をけると、鉛の削りかすと古いの匂いが、微かなカビの臭気とともにちってくる。 先端の丸くなったHBの鉛、使いかけの練り消しゴム、角が擦り切れた自由帳。その底に、青い塗料がところどころ剥げ落ちた、懐かしいスチール製のペンケースが沈んでいた。
に取ると、カチャリと乾いた属音がした。
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蓋をける。には何も入っていないように見えた。だが、底に敷かれたいスポンジのクッションが、端からわずかに浮きがっているのが目に入った。
子どもの頃、親や教師に見られたくないさな宝物を隠す定番の所だ。 差し指の爪を隙に差し込み、劣化して茶く変したスポンジをゆっくりとめくった。
そのに、つ折りにされたさな片が挟まっていた。
国語の漢字練習帳から指で乱暴に千切り取られた、のひらに収まるほどのい藁半だった。 経劣化での縁は黄く変し、し力を込めただけでボロボロと崩れてしまいそうなほど乾ききっている。
指先を震わせながら、折り目を慎にいた。 マス目のに、濃い鉛の圧で、震えるような文字がだけ記されていた。
『先はのとき、まだにいました』
その文字を見た瞬、私の背筋を、氷を素肌に流し込まれたような寒気が駆け抜けた。 のあのの記憶が、押し殺していたはずの胸の底から、鮮烈な痛みを伴って気に噴きしてきた。
。私が学の、がまり始めた頃のことだ。
担任だった倉美奈子先が、ある突然、学から姿を消した。
翌朝、教に現れたのは教だった。黒板のにった教は、どこか怯えたような、腫れ物に触るような顔つきで、私たちの児童を見渡しながらこう告げた。
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「倉先は、精神なお疲れがひどく、ご自のお申しにより、教育の現をれることになりました。先のこれまでのご指導に謝しつつ、皆さんは揺することなく、からの授業に集してください」
先からの別れの言葉も、も、置き産のメッセージもなかった。 教卓のには、の放課に先が途で赤ペンを入れるのをやめた連絡帳のが、自然なまま残されていた。
学から各庭に配られたのは、粗末な緑のプリントだった。『組保護者の皆様へ――担任教諭の健康の理由による依願退職について』と題されたそのには、美奈子先がいかに精神に定であったか、いかに職務を継続することが困難であったかが、役所特の淡で婉曲な表現でき連ねられていた。
たちは納得した。 「若い女の先だったから、いろいろ抱え込みすぎたんだろう」 「最の先は打たれいからね」 所の母親たちは井戸端会議でそう噂し、倉先というを、さも最初からいなかったかのように常の記憶から片付けていった。
だが、あのの放課、異常な来事が起きていた。
学から帰宅した組の児童が、それぞれの庭で、まったく同じ質問をたちから投げかけられた。
「倉先、今どんな様子だったの?」