"全員が揃えた同じ嘘" 第5話
精神を病んで、教え子に言も告げずに消えるはずがないのだ。
写真の最列の端に、線を移す。 の児童たちがカメラに向かってピースサインを作ったり歯を見せて笑ったりしているで、だけ、線をわずかに斜めに落とし、張った表で写っている女がいた。
篠原。 転してきた初、自己紹介の声があまりにもさくて、教先に「もっときな声で」と注されていた。 その、倉先が教を制するようににち、「丈夫ですよ、しずつ慣れていこうね」との肩をそっと抱きしめていた。 の腕には、折、袖の隙から自然な痣が見え隠れしていた。体育の授業を「見学します」と言って休むことがく、放課になると、倉先がだけを教に残して、きりでく話し込んでいたのを覚えている。
そして、私のポケットにある片。 『先はのとき、まだにいました』
に学をてったはずの先が、なぜにいたのか。 緑ヶ丘学の「」といえば、体育館の真にあった旧ボイラーと、体育器具の予備を詰め込んでいた半の倉庫しかない。 湿気とカビの臭いが充満し、昼でも暗く、徒たちのでは「お化けがる」と噂されてち入りが禁止されていた所だ。
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なぜ、先はあんな所にいたのか。 そしてなぜ、子どもたちは「に帰った」と証言しなければならなかったのか。
警察にくことはできない。 の、しかも事件として件すらされていない教員の退職だ。「子どもの頃についた嘘が気になります」などと言ったところで、払いをらうのが落ちだ。 同級たちもを割らない。綾のあの怯えようを見れば、の誰に連絡を取っても同じ結果になることは目に見えていた。
がかりは、学そのものしかなかった。
私は帳をき、区役所の福祉課や教育委員会との連絡網から、ある物の連絡先を探しした。 田男さん。歳。 私が学だった当、緑ヶ丘学の用務員として勤務していた用務員だ。 舎の営繕から壇の入れ、ボイラーの管理まで、学の隅々までり尽くしていた無な老だった。数に退職し、現は学の裏の丘のにある古い営宅で暮らしをしているはずだった。
役所の端末で調べた話番号を、スマートフォンのテンキーでプッシュする。 呼びし音が、のる部にく響いた。 回、回。ないかもしれないとい、指を画面からそうとした瞬、カチャリと受話器ががる音がした。
「……はい、田ですが」
く、枯れた、しかし記憶にある通りのしゃがれた声だった。
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「田さんでしょうか。突然のお話、申し訳ありません。私、に緑ヶ丘学を卒業した、佐久律と申します。組にいた……」
「……佐久君?」
田さんは、私の名を驚くほど正確に記憶していた。 「ああ、あの、おとなしかった佐久君か。……どうしたね、急に。役所の仕事か何かかね」
「いえ、個なお願いなんです。来週、学の旧舎が解体されると聞きまして……そのに、どうしても田さんにお聞きしたいことがあるんです」
「舎のことかね」
「はい。……倉美奈子先のことです」
話の向こうで、呼吸がふっと止まる気配がした。 の音だけが、受話器を通じて静かに混ざりう。 田さんはい沈黙の、々しい調で問い返してきた。
「……なぜ、今更その名をす」
「押し入れを片付けていたら、当のメモがてきたんです。倉先が辞めたあの、組の徒全員が『先は午に帰りました』と親に嘘をつきました。でも、そのメモには、先はの、まだ体育館のにいたとかれていました」
田さんからの返事はなかった。 だが、受話器の奥から、カタカタと微かに震える音が聞こえた。彼のが、受話器を握る指が震えているのだと直した。
「田さん。あの、ので何があったんですか? 先は本当に、自分の志で学をったんですか?」
沈黙は、分く続いた。 計の秒針がむ音だけが、障りなほどきく響く。