"全員が揃えた同じ嘘" 第17話
最の曜。 空はどこまでもくれ渡り、の澄んだが々の葉を揺らしていた。
本県の最端、太平を臨むさな港町に、私たちは台のに分乗して到着した。 集まったのは、私、、輔、綾を含めた。 来られなかった分のを綴じたいバインダーを、が両で切そうに胸に抱きしめていた。
港を見ろすい丘のに、赤茶のレンガ造りの建物が静かに佇んでいた。 『岬町 点字・障害者図館』。 潮に晒されて板の文字はし古びていたが、玄関脇には入れのき届いた植鉢が並び、柔らかな静けさに包まれていた。
自ドアをくぐると、かすかな蜜蝋と古いの匂いが腔をくすぐった。 受付の女性職員に用件を伝えると、職員はし驚いたように目を丸くし、それから優しく微笑んだ。
「倉さんですね。裏の図修復におりますよ。ちょうど今、傷んだ点字図の補修作業をされているところです。……どうぞ、静かに入ってあげてください」
廊の突き当たり、すりガラスの嵌め込まれたの引き戸に『図修復』の札が掛かっていた。 私が先にち、呼吸をしてから、指先で静かに戸をスライドさせた。
からからと、乾いた戸が鳴る。
向きのきな窓から、柔らかなの差しが部いっぱいに注ぎ込んでいた。
広告
製の作業台が並ぶ部の央で、の女性が背筋を伸ばし、丸子に腰掛けていた。
髪の混じり始めた髪をく切り揃え、飾り気のない成りのシャツに作業用デニムのエプロンを着けている。 元には、ばらばらになった古い本の束。刷毛に糊を含ませ、破れた頁をで丁寧に貼りわせるその指先は、記憶のにあるよりもし骨張っていたが、信じられないほど穏やかで、繊細だった。
袖から覗く首のあたりに、かつての激闘を物語るような、いケロイド状のい古傷が本、静かに刻まれていた。
倉美奈子先だった。 歳になった先が、そこにいた。
戸がいた音に気づき、先がゆっくりと顔をげた。 眉を微かにかし、訪れた勢のたちを見て、議そうに瞬きをする。
「あ……はい。ご本の修理の依頼でしょうか?」
その声を聞いた瞬、私の背でが息を詰まらせ、輔の喉からくぐもった呜咽が漏れた。 の夕暮れ、黒板に向かって「気をつけて帰りなさいね」と笑いかけてくれた、あの柔らかく澄んだ声そのものだった。
だが、先の瞳には、かつての教え子たちを認識したはなかった。 無理もない。私たちはもう、歳のさな子どもではない。背も伸び、顔つきも変わり、社会の荒波に揉まれるの男と女になっていた。
広告
私が歩、にみた。
「倉先」
呼びかけると、先は首を傾げ、困ったような、どこか申し訳なさそうな微笑みを浮かべた。
「あの……すみません。私は『倉』ですが、今は教壇をりておりまして……『先』と呼ばれるようなではないんです。以に何か、ご迷惑をおかけしたことがあったでしょうか」
先は席からちがり、私たちを警戒させないように、控えめにをげた。 自分の過がに迷惑をかけるのではないかと、今でもそうやってを竦めてきてきたのだ。その慎ましさが、私たちの胸を激しく締めつけた。
が、私の隣から歩みた。 抱えていたバインダーを作業台のに静かに置き、先のにむと、そのに崩れ落ちるように膝をついた。
「先……」
は震えるで、ポケットからあのジッパー付きの透な袋を取りした。 、守り抜かれてきた、黄く脆くなった藁半。 それを、先の元に、両で捧げるように差しした。
先の線が、その片へと落ちた。 ビニール越しに見える、歪な鉛の文字。
『先はのとき、まだにいました』
その文字を捉えた瞬、先の息が止まった。 穏やかだった先の顔から、さっと血の気が引いていく。 目を見き、信じられないものを見るように、線が片から、跪くの顔へとがっていった。
「あなた……まさか……」
先の唇が激しく震え始めた。