"全員が揃えた同じ嘘" 第18話
指先が宙を彷徨い、の頬に触れようとして、恐れるように引っ込められる。
「ちゃん……? 嘘……ちゃんなの……?」
「先!」
は先の膝に顔を埋め、堰を切ったように声をげて泣き崩れた。
「私です……です! 先、ごめんなさい……ずっと言えなくて、ずっと会いに来られなくて、本当にごめんなさい! 私、先が助けてくれたおかげで……無事にになれました! 今は、本に関わる仕事をして、毎笑って暮らしています! 先が……先が守ってくれたから、私はここにきています!」
先はち尽くしたまま、両で自分の元を押さえた。 粒の涙が、そのきな瞳から次々と溢れし、エプロンの胸元を濃いに染めていく。
「きくなって……あんなにさかったのに……こんなに派になって……」
先は跪き、震える両腕での華奢な体を抱きしめた。 、あの血まみれのでそうしたように、壊れ物を包み込むような、く優しい力で。
その景をに、部の空気が震えていた。 輔が顔を両で覆って肩を震わせ、綾が涙を拭いもせずににみた。
私たちは、誰から図されたわけでもなく、作業台のに横列に並んだ。 かつて、組の教の黒板のに並んだのように。 のが、然と姿勢を正した。
学級委員だった綾が、きく息を吸い込んだ。
広告
その声は涙でかすれていたが、かつて誰よりも凛としていたあの委員の声に戻っていた。
「――起」
先が、を抱きしめたまま、涙に濡れた顔をげた。
「――礼」
私たちは全員、々とをげた。 腰を度に折り、分の祈りと、悔と、謝のすべてを込めて。
そして、示しわせたわけでもないのに、全員の声がなった。
「先。私たちはあの、嘘をつきました」
窓のから、い潮騒の音が響いていた。
「先は午に帰っていませんでした。先はあの、で、を守ってくれました。そして……私たち全員を守ってくれました」
をげたまま、涙がのフローリングに点々と落ちていく。
「先、ありがとうございました。……組、ただいま放課の報告を終わります」
部のに、い沈黙が流れた。 聞こえるのは、が窓を揺らす音と、誰かの嗚咽だけだった。
「みんな……」
先の、絞りすような声が聞こえた。 顔をげると、倉先はを抱きしめたまま、に座り込み、子どものように泣きじゃくっていた。
「覚えていて……くれたのね……。みんな、私のこと……んでるとってた……。あんな嘘をつかせて、辛いいをさせて……傷つけてしまったとってた……」
「むわけないだろ!」
輔が列からびし、先のに膝をついた。 だらけの仕事でくなった輔のきなが、先の細い肩を抱いた。
広告
「俺は先に助けられたんだ! みんな先に守られたんだよ! 先が自分を犠牲にしてくれたから、俺たちは誰も警察に怯えずに、まともなになれたんだ! 先は……俺たちの最の担任だよ!」
先は泣きながら、輔の顔を見げた。 そして、列に並ぶ私たちひとりの顔を、眩しいものを見るように、おしそうに見つめた。
「律君……綾ちゃん……みんな……」
先のから、に呼ばれていた私たちの名が、次々と溢れしてきた。 忘れてなどいなかったのだ。 記憶を失ったわけでも、過を捨てたわけでもない。 先もまた、たったでこの辺の町で、教え子たちの未来が平穏であることを、毎毎、祈り続けてきてきたのだ。
が、机ののバインダーを先の膝のに置いた。 「来られなかったみんなからのです。、全員の言葉が入っています」
先は震える指先でバインダーをいた。 そこには、分の成の記録と、謝の文字が、びっしりと詰まっていた。 先はその頁を、まるで自分が修復してきたどんな貴な物よりも切そうに、何度も何度も撫で続けた。
夕暮れ、私たちは図館のに面したテラスにいた。
の空が、茜からいへとゆっくりと移ろいでいく。 平線の向こうに沈みゆく夕が、穏やかな面を真っ赤に染めげていた。
、あの学の窓から見た夕暮れと同じ、切なくなるほど美しいだった。