"十年前に死んでいた夫" 第14話
どうしてあの子なんだ、どうしてあの子の部の排気を閉めたんだ、あんたが代わりに障害者になればよかったんだって……あたしは、敬さんに喚き散らした」
私は黙って聞いていた。 責める気など、微も起きなかった。 が子の命を、未来を奪われた母親が、理性を保てるはずがなかった。
「敬さんは、言も言い訳をしなかったよ。毎毎、病院の廊に正座して、あたしが帰れって言っても帰らなかった。それから、自分の持ってたものを全部売った。所のも、も、父親の残した預も、全部だ。千万円以のを、あたしのに積んで、畳にを擦り付けて泣いたよ。『申し訳ありませんでした』『僕のをかけて、償います』ってね」
「主は……そうして、町をたのですね」
「ああ。あたしが追いしたんだ」 フミさんは、自嘲するように元を歪めた。 「『おの顔を見るだけで、事の夜をいす』『をもらったって許せるわけがない』『ぬまであたしたちのに現れるな』ってね。……あの男は、分かりましたって言って、をげててった。それっきりさ。度と、この町には戻ってこなかった」
「でも……」 私は膝ので、に汚れたを握りしめた。 「主は、あなた方を忘れてはいませんでした」
フミさんは、ゆっくりと顔をげた。 その瞳に、再び微かなが灯る。
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「……ってるよ」
フミさんはちがり、仏壇ののさな引きしをけた。 そこから、埃をかぶった段ボール箱をつ、両で抱えして畳のに置いた。 ガムテープで補された、古いみかん箱だった。
箱のフタがけられた。 を見て、私は息を呑んだ。
ぎっしりと、詰まっていた。 と緑の、現留の封筒だった。
何通、何百通という封筒が、輪ゴムで束ねられ、然と並べられていた。 番の封筒を、フミさんが指先で取りした。 消印の付は、昨のだった。
表面の宛名には、震えるような、しかし几帳面な万の文字で、 『川瀬フミ様』 とかれていた。
だが、裏面の差の欄は、完全に空だった。 所も、名も、切かれていない。
「毎、に届くんだよ」 フミさんの声が、微かに震えていた。 「あの男が町をてから、以。ただの度も欠かさずにね。にはいつも、札で万円が入ってる。の枚も入っちゃいない。ただ、だけが送られてくるんだ」
私の界が、瞬で歪んだ。 涙が、堰を切ったように溢れした。
万円。 毎、夫が私に渡してくれた活費は万円だった。 『計の修理代をいただいたから』 そう言って、いつも札の混ざった封筒を私に渡してくれたあの。 彼の取りは、おそらく万円だったのだ。
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朝から晩まで、裏のさな部で、目をしょぼつかせながら計の細かい歯をわせ、具の傷を埋め、指を傷だらけにして稼いだそののから、彼は毎、真っ先にこの万円を抜き取っていたのだ。
自分のためのなど、で枚も買わなかった。 靴底に穴が空けば、ゴム糊で塞いで履き続けた。 歯が痛んでも、邪を引いて咳が止まらなくなっても、頑なに医者へこうとしなかった。
『もったいないよ、久恵さん。寝てれば治る』
そう言って笑っていた夫の顔が、脳裏に焼き付いてれなかった。 もったいなかったのではない。 自分の体におを使うことなど、彼には許されていなかったのだ。 自分の命を繋ぐためのがあるなら、円でもく、この母親の元へ送り続けなければならなかったのだ。
「佐伯、という名に当たりはありませんか」 私は涙を拭いながら、震える声で尋ねた。
「佐伯……? ああ、所で働いてた、あの若い佐伯孝之のことかい」 フミさんは首を傾げた。 「あの子がどうかしたのかい?」
「主は……から、佐伯さんの名を名乗って暮らしていたんです。佐伯さんの診察券を使っていました」
フミさんは驚いたように目を見いた。
「佐伯の名を……? あの子は、のに、京でトラックにねられてんだよ。寄りがないからって、あたしのところにも警察から連絡が来てね。
所の縁で、あたしが遺骨を引き取って、このくの共同墓に納骨してやったんだが……。