"十年前に死んでいた夫" 第18話
の朱印。 何枚もの領収が、の歳をそのまま証していた。
「……本当だ」平野課が呟いた。「割、全額支払われている……。だが、それならなぜ、わざわざの診察券などを……?」
「自分を、殺すためです」
私は次に、茨から持ち帰った枚のメモと、夫の通帳の代わりに残されていた、郵便局の受領証の束を差しした。 毎かに、決まって万円の普通為替が作られた記録。 そして、昨夜、のバラックで目にした、あの段ボール箱の景を、ありのままにに語った。
の災。 女の未来を奪ってしまったこと。 財産をすべて投げ打ち、母親に「度と顔を見せるな」と罵倒されたこと。 そして、佐伯孝之という寄りのない若者がんだ、彼がその名をに入れ、自らをこの世から抹殺したこと。
「主は、輪敬として息をすることすら、自分に許していなかったのです」 私の喉の奥から、いものが込みげてきた。 「輪敬という加害者がどこかで普通に暮らしているだけで、あの母親の傷を抉り続けることになる。だから、主は戸籍を捨て、名を捨て、のに隠れました。そして、朝から晩まで計を直し、具を直し、稼いだおのから、毎欠かさず万円を、数送り続けたのです」
部のが、静まり返った。
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のをるのエンジン音が、く微かに聞こえるだけだった。
警部補はペンを止め、机のの領収と受領証を、じっと見つめていた。 その厳しい警察官の目元が、わずかに緩んでいた。
「……その、川瀬志保さんという女性は」 警部補が、く尋ねた。
「に、くなっていました」 私は言った。 「主が佐伯さんの診察券をに入れた、まさにそののに、くなっていたのです。でも、母親はそれを主にらせませんでした。……主の罪の識だけが、自分と世界を繋ぐ唯の糸だったからです。主は、女がもうこの世にいないこともらず、しない相に、ぬまでを送り続けていたのです」
平野課が、両で顔を覆った。 「そんな……そんな馬鹿な話が……」
「主は、誰も騙していません」 私は畳にをつき、にをげた。 「法律を破ったことは事実です。んだ方の診察券を使い、役所に届もさず、社会の秩序を乱しました。その罪を問うというのなら、どうか私を罰してください。、その男の隣にいて、何も気づかなかった私の罪です。……でも、お願いです。あのを、これ以、名のない犯罪者として扱わないでください」
い沈黙が流れた。 やがて、警部補がく息を吐き、帳をパチンと閉じた。
「……平野課」 警部補が言った。
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「病院側として、被害届を提されますか」
平野課は顔をげた。 鏡の奥の目は赤く充血していた。 彼は元の診察券と領収を見つめ、それから静かに首を横に振った。
「……銭実害はありません。診療記録の改ざんや、正な投薬の転売といった悪質性も皆無です。当院としては……事務続きの備として処理し、警察への被害届の提は見送らせていただきます」
警部補は頷き、ちがった。
「奥様。本来であれば、公正証原本実記載や体遺棄の疑いで、ご遺骨の押収や厳格な事聴取が必な事案です。ですが……あなたが集められたこれだけの証拠と、茨での事実関係を照らしわせれば、事件性がないことはです。私は署に戻り、本件を『元詳者の自然に伴う、事な元判事案』として報告をげます。区役所の戸籍課と連携し、輪敬としての正式な処理がめられるよう、配しましょう」
警部補はドアのにち、振り返った。 その顔には、のとしてのい敬が浮かんでいた。
「ご主は……派な奥様を持たれましたね」
はく礼し、静かに部をてった。 音が階段をり、やがて消えていく。
私は、畳のに座り直した。 肩の荷がりたはずなのに、胸の奥には、まだたいが吹き抜けていた。
警察と病院がったあと、部は再びい静寂に包まれた。 の夕暮れが、障子のないガラス窓を暗い青に染めていく。