"十年前に死んでいた夫" 第20話
緒に暮らそうと言った、私は自分の罪を忘れようとしたわけではありません。 ただ、で度だけでいいから、誰かの役にち、誰かを温め、誰かに必とされるになりたかった。 それは、罪の私にとって、あまりにも過分で、恐ろしいほどの甘えでした。
久恵さん。 私は、あなたに真実を話すことができませんでした。 何度も、何度も話そうとしました。 あなたが夜に私の背をさすってくれた、私のえたを温めてくれた、私は自分の罪をすべて告し、あなたの軽蔑を受け止めるべきでした。
けれど、私にはそれがどうしてもできなかった。
もし私が輪敬であるとかせば、あなたが私に注いでくれたの温もりまでもが、すべて「殺しを匿っていた」という汚れた記憶に変わってしまう。 あなたが私を信じ、してくれた々のすべてを、私の過で塗りつぶしてしまうのが、何よりも怖かったのです。
私は、輪敬としてではなく、あなたの夫である「佐伯孝之」としてにたい。
佐伯孝之という男は、戸籍のでは幽霊かもしれない。 けれど、あなたと緒にご飯をべ、あなたの帰りを待ち、あなたの笑顔を見るために計を直していたあの男だけは、決して嘘偽りのない、本物の私でした。 あなたと過ごしただけが、私のので、唯の当たっていた所でした。
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勝な男を、どうか許さないでください。 骨は、どこかのにでも撒いて、忘れてください。
あなたがこれから先、穏やかで、温かいを迎えられることを、の底から祈っています。
ありがとう、久恵さん。 さようなら』
は、そこで終わっていた。 付も、署名もなかった。
のに、粒の涙がボタボタと落ちた。 鉛の文字が滲み、黒い輪が広がっていく。
「馬鹿ね……」
私はを胸に抱きしめ、声をげて泣いた。 子供のように、声を枯らして、畳に突っ伏して泣き続けた。
何が「汚れた記憶」なものですか。 何が「忘れてください」なものですか。
彼は、最の最まで、私を守ろうとしていたのだ。 自分の犯した罪のを、私の滴たりともねがらせないために。 私と過ごしたのささやかな温もりを、綺麗なまま私の元に残すために。 彼は自分の本名を墓まで持っていこうとし、名もなきの仮面を被ったまま、息を引き取ったのだ。
あのが私にくれたものは、偽りなどではなかった。 世に対してはすべてが嘘だったかもしれない。 けれど、私に向けられたあのの言葉、あのの温もり、あのの流した涙だけは、世界の誰よりも純粋で、本物の真実だった。
「許さないわけ、ないでしょう……」
私は涙で濡れた顔をげ、骨壺を両で抱きしめた。 たい磁の触が、腕のに伝わってくる。
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「あなたがどんな過を背負っていようと、どれだけ名を変えようと……あなたは、私のたったの夫よ」
部ので、のい温かいが吹いた。 ガタガタと古い窓が鳴り、夜の帳が完全にりていた。
季節は巡り、の旬を迎えていた。
政の続きは、警部補と弁護士の尽力により、驚くほど静かに、そして着実にんだ。 久保総病院が被害届をさなかったこと、そして私が提した数分の領収とのが考慮され、刑事事件としての件は見送られた。 庭裁判所での審判を経て、数に「」と誤認されていた佐伯孝之の記録が理され、そして「輪敬」というの男の戸籍が、数ぶりに回復された。 回復されると同に、その戸籍には「平成 京都内にて」という朱線が引かれた。
彼は、法のでも、ようやく自分自の名のに眠ることを許されたのだ。
私は暮らした造アパートを引き払った。 荷物の半を処分し、残ったのはさなスーツケースつと、あの彫りの具箱、そして夫の遺骨だけだった。
私が向かったのは、茨のあの町ではなかった。 あののバラックにも、沼田老の作業にも、度とづくつもりはなかった。 過を掘り返し、誰かを傷つけるような真似は、夫が決して望まないことだと分かっていたからだ。