"退職金と三百万円の借金" 第11話
からまでのページをいた状態で。
佐野の線が、その几帳面で、最に乱れた夫の跡に吸い寄せられた。
彼の帳を見た瞬、佐野の顔から完全に血の気が引いた。
「師匠の……帳、ですか」
「ええ。の夜から、までのことが全部いてあったわ。あなたが何を違えて、男さんがどうやってあなたを庇おうとしていたかも」
私は溶けたコーヒーのグラスを見つめながら、静かに語りかけた。
「佐野君。今の昼、会社で妙な噂をにしたわ」
佐野が顔をげた。
「……噂、ですか?」
「事の浦部が、総務の女性社員に漏らしたらしいの。『林静枝さんの退職相殺について、川常務から特例扱いで全額補填の指示がた』ってね。それが尾ひれをつけて社内に広まってる。『林の旦が、会社のを使い込んで穴をけていたのを、常務の温でずっと隠してもらっていたらしい』『定をに、常務がポケットマネーで揉み消してやったそうだ』って」
「なっ……!」
佐野がちがりかけた。その表に、激しいりと屈辱がる。
「違います! そんなの、全然違います! 使い込みなんかじゃない、男さんは円だって私腹を肥やしてなんかいない!」
「静かにしなさい」
私は佐野を睨みつけた。
「私が番わかっているわよ。私の夫は、そんなじゃない。
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でもね、佐野君。川常務が取ろうとした『の解決法』――つまり、権力と裏でからへ葬りろうとした結果、何が起きたとう? 男さんの名誉が、今まさに靴で踏みにじられているのよ! 『になし』で、全部男さんの汚名にされようとしているの!」
佐野は言葉を失い、両でを抱え込んだ。
「話して、佐野君。あの、何があったの。全部よ。隠し事は切なしで話しなさい」
私は帳を指先でく叩いた。
「あなたが話さないなら、私は、この帳を持って労働基準監督署と警察へく。夫のが、業務の極度なストレスと過労働によるものだったと労災申請をし、会社の事故隠しを公にする。そうなれば、品の板にも傷がつくし、あなたもただでは済まないわよ」
「……話します」
佐野のから、掠れた声が漏れた。
彼は震える両をテーブルので固く組み、溶けたアイスコーヒーの表面を見つめながら、の記憶の蓋を、ゆっくりとけ始めた。
「あの……型台が関に直撃していました」
佐野の声は、さく、乾いていた。
「僕が入社して、まだ半も経っていない頃でした。センターの凍・蔵倉庫には、末商戦に向けた億単位の級材がぎっしり詰まっていました。夜に激しいがあって、瞬なが起きたんです。
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自発装置は作したんですが、C棟の凍設備だけ、制御盤のエラー表示が消えなくて……」
見回りをしていた男は、事務所での棟のシステム復旧に追われながら、佐野に無線で指示をしたという。
『佐野、C棟の第気へけ。補助ブレーカーのランプが赤く点滅していたら、リセットボタンを押してから、バイパスレバーを「通常」に戻せ。絶対にメインの主幹ブレーカーには触るなよ』
だが、激しい鳴と豪の音、そして初めての夜緊急事態に、佐野は完全にパニックに陥っていた。
「暗い気で、焦って……レバーの位置を見違えたんです。バイパスではなく、主幹ブレーカーのレバーを、僕は力任せに『切』の位置へ引きげてしまいました。……カチリ、と音がして、却ファンの轟音が止まりました。でも、計器のランプが消えたのを、僕は『復旧して正常に戻った』と恐ろしい勘違いをしたんです」
翌朝、夜勤交代の点呼の直、男がルーティンの温度確認でC棟のい防扉をけた。
その瞬、吹きしてきたのは凍りつくような気ではなく、温かい湿気と、腐敗が始まった産物の異様な臭さだった。
マイナス度で保たれるはずの庫内は、プラス度まで昇していた。
パレットに積まれていた級帆とズワイガニの段ボールは、結でぐしゃぐしゃに潰れ、から解凍されたドリップが赤黒い血のように面に流れしていた。