"退職金と三百万円の借金" 第12話
「男さんは……鳴りませんでした」
佐野の目から、粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
「僕が過呼吸を起こして、そのにへたり込んで震えているのを見て、男さんは自分の防寒着を僕の肩にかけてくれたんです。『怪はないか。丈夫だ、俺がいる』って……それだけ言って、すぐに川部に話をかけました」
当、品のコンプライアンス規程は、流通グループの傘に入った直で、異常なほど厳罰化されていた。
「入社員のな過失による億単位の信用失墜と、数百万円の実損害。……川部は現に来て、僕を見るなり『こいつはクビだ』と言いました。損害賠償の請求が実に送られれば、形の僕の実の果園なんて発で差し押さえでした。僕のは、あのの朝、完全に終わるはずだったんです」
それを、男が体を張って止めたのだという。
『部、佐野は俺の指示通りにいただけです。俺の指示のし方が悪かった。責任はすべて現責任者の俺にあります。こいつのクビだけは繋いでやってください。なんとか、内々に処理できませんか』
男は、たいに座をして、川部に懇願した。
「都送という請けの運送会社が、たまたま同じ荷主の別ルートの凍帆を自社倉庫にストックしていました。
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男さんと川部は、そこにをげて駆け込み、正規の納品ににわせるための代替品を、即現決済を条件に融通してもらったんです。その買い戻しと、廃棄する変質貨物の極秘処分の費用……それが、ぴったり『百万円』でした」
「……それが、納伝票の支払先だったのね」
「はい。都送の社は昔気質ので、『川さんと男さんの頼みなら、現をを揃えて持ってくれば、事故のことは荷主にも本社にも黙っておいてやる』と言ってくれたそうです。……納品は、ギリギリでにいました。荷主からのクレームもず、事故は現ののに封じ込められました」
だが、その代償はあまりにもきかった。
「納品を終えたの夜、男さんは丸もしていませんでした。代替品の積み替え作業を、業者と緒に作業で徹夜でやったんです。腰を押さえ、何度も胸を叩きながら……『佐野、これで丈夫だ。おはから、何わぬ顔でトラックを誘導しろ』って、笑いながら僕のを叩いて……それが、僕が見た男さんの最の姿でした」
佐野は両で顔を覆い、しゃくりげた。
胸が張り裂けそうだった。
男。私の愚直で、優しすぎた夫。
なぜ、私に言も相談してくれなかったのか。
『すまない、静枝。俺の注で、取り返しのつかないことをしたかもしれない』
あの、玄関先で夫が漏らした言葉のみが、のを経て、私の臓を激しく突き刺した。
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あの、もっと厳しく問い詰めていれば。無理にでも病院へ引っ張っていっていれば、夫はなずに済んだのかもしれない。
私は乾いた唇を噛み締め、溢れそうになるを懸命に押し殺した。
泣くのはだ。まだ、番気な謎が解けていない。
「……佐野君。事故の真相はわかったわ。男さんがあなたを守ろうとして、過労で命を落としたことも」
私は帳を閉じ、まっすぐに佐野を見据えた。
「でも、それと、あの『借用証』がどう結びつくの? なぜ、男さんがくなったに、告別式の当に、私の名で百万円の借入がわれなければならなかったのよ!?」
佐野は顔をげた。その瞳には、底れぬ恐怖と、抱え続けてきた罪の識が渦巻いていた。
「僕は……当、取りで万円しかもらっていませんでした。貯なんて万円もなくて、百万円なんて、逆ちしたって払えませんでした。都送への支払い期は、……男さんの告別式のがリミットだったんです」
「だったら、起こした本のあなたが会社から借をするか、川常務がて替えるべきでしょう!」
「僕には、貸付の申請資格がなかったんです!」
佐野が叫んだ。
「入社半の試用期の社員には、会社の緊急福祉貸付制度は適用されない規定でした! そして川常務も……当はまだ介の部で、役員昇の査定を目に控えていました。