"席次表から消された姉" 第5話
「美奈のことを母さんに話したら、すごく気に入ってくれたよ」と言っていたあの言葉。 すべてが、姉を夜の無労働に駆りすための、醜悪な餌だったというのか。
姉は、私のために。 私が「名」に受け入れられ、幸せな結婚ができるようにと、の激務のにあの病院へ通い、失禁した老の汚物を拭い、徹夜で病を続けていたのだ。 あの激痩せも、肌荒れも、すべて私の結婚のために姉が削り落とした命の代償だった。
「お姉ちゃん……っ、なんで、なんで言ってくれなかったの!? そんなの、そんなの絶対におかしいよ! 断ればよかったじゃない! 私のためにそこまで……っ」
私はテーブルに突っ伏して慟哭した。 自分の無が、能気さが、呪わしくてたまらなかった。 何もらずに「翔太さんって本当に優しくて、お母様も素敵な方なの」と、姉に無邪気に語っていた自分が、どれほど姉のを切り裂いていたか。
「言えるわけないじゃない」
綾さんのが、私の震えるのにそっと置かれた。
「あなたがどれだけ翔太さんを好きかっていたし、やっと掴んだ幸せを壊したくなかった。それに……最初は私も、これであなたの結婚がうまくいくなら、内として役にてるならって、馬鹿正直にっていたのよ」
姉のの平の温もりが、痛いほど伝わってくる。 だが、その温もりとは裏腹に、綾さんの声は再び質なたさを帯び始めた。
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「でもね、美奈。私がっているのは、利用されたことじゃないの」
綾さんは私の顔をげさせた。 その瞳の奥には、確固たる、消すことのできない疑とりの炎が燃えていた。
「あのヶ、毎晩お父様の側にいて……私は見てしまったのよ」
「……何を?」
「鈴という『体面』の裏側に隠された、あの母子の本当の姿を。そして、お父様がなぜ倒れたのか、あのが病でお父様に何をしていたのかをね」
息を呑む私ので、綾さんはテーブルののクリアファイルを指先で弾いた。
「翔太さんと冴子さんが、なぜ私を結婚式から排除したがっているのか。理由は簡単よ。 お父様は今、奇跡にリハビリで回復して、式には郎の父親として席する予定でしょう?」
「……うん。子だけど、主婚としてるって」
「もし私が披宴の会にいたらね。お父様が私の顔を見たら、あのが隠してきた全てが、親戚や来賓のでのに晒されることになるのよ」
綾さんは、氷のようにたい目で席次表の赤い線を見つめた。
「あの母子はね、私を恥じているんじゃない。 私が、あのの『罪』をっているから――震えるほど怖いのよ」
背筋に、たい悪寒が駆け抜けた。 ただの見栄や格差の差別ではない。 この結婚の裏には、もっと暗く、底れない沼がをけている。
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私は震える指で、赤く塗りつぶされた姉の名を見つめ直した。 その赤いインクが、まるで誰かの流した血のように見えて仕方がなかった。
練馬の姉の部をた、夜空は底えのする濃紺に染まっていた。 駅までの寂れた商を歩きながら、私は何度も自分のコートのポケットにを入れた。スマートフォンの画面には、翔太からの着信が件、メッセージが通溜まっていた。
『美奈、どこにいるんだ』 『プランナーさんを待たせてるんだぞ』 『静になってくれ。僕はおのを守るために言ったんだ』
画面のかりが消えると、暗のに自分の顔がぼんやりと映った。 姉が語った言葉のひとつひとつが、たい鉛のように胃の底へ沈み込んでいた。 ――私が式にると、あのは困るんだよ。 ――翔太さんはあなたに言ったかしら? お父様が入院していたあのヶ、毎晩、夜の病で誰が付き添っていたか。
吐く息がく揺れる。私は震える指でスマートフォンの源を切り、そのままポケットの奥くへ押し込んだ。
ヶに控えた結婚のために、週に引っ越したばかりの目黒のマンション。 エントランスのオートロックを解錠し、静まり返った内廊をむ。元に敷かれた毛のい絨毯が、私の音を吸い込んでいく。
部のドアをけると、微かに築特の接着剤の匂いと、翔太の用しているスパイシーなコロンのりが混ざりって漂ってきた。