"席次表から消された姉" 第6話
「……遅かったじゃないか。どこへってたんだよ」
リビングのい本革ソファにく腰掛けた翔太が、ワイングラスを片に振り返った。 冴子さんが「居の品格にふさわしいものを」と指定した、イタリア製の価な具。とグレーで統された無質な空は、まるでモデルルームのようで、歩を踏み入れるだけで肌が粟つような息苦しさを覚える。
翔太はネクタイを緩め、眉にい皺を寄せていた。りを抑え込んでいる男の顔だった。
「配したんだぞ。話にもないで」
「……ごめんなさい。し、をやしたくて歩いてたの」
私は靴を脱ぎ、努めて平静を装いながらバッグをラックに置いた。 翔太の顔を直することができない。このった顔ちの奥に、どれほどの欺瞞と酷さが隠されているのか。そううだけで、指先が氷のようにたくなっていく。
「プランナーさんには僕から連絡しておいたよ。『席次表の肩きに部誤認があったため、提は曜の朝まで待ってくれ』ってね」
翔太はちがり、キッチンカウンターに置かれたワインボトルを傾けた。トクトクとい赤ワインがグラスを満たす。
「美奈、昼のことは僕もし言い過ぎたかもしれない。悪かったよ」
さらりとした謝罪だった。 しかし、その言葉に温かみなど微もなかった。
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ただ、波をてずに自分の求を通すための、計算された宥めに過ぎない。
「でもね、母さんの言うことも理解してほしいんだ。鈴は代々、この域で名士として通ってきた系なんだよ。僕の仕事だって、親族のコネクションに支えられている部分がきい。結婚式で余計な突っ込みどころを作れば、々困るのは僕たちなんだから」
翔太はグラスを掲げ、優しげな笑みを浮かべて私の肩にを置こうとした。 私は反射に、着を脱ぐふりをしてそのをすり抜けた。
「……ねえ、翔太さん」
キッチンのシンクに背を向け、私はく、静かな声で切りした。
「ののこと、覚えてる?」
翔太のグラスを持つが、空でわずかに静止した。
「の? 何だよ急に」
「お父様が、脳梗塞で倒れて入院されたでしょう。からまでのヶ」
部の空気が、ふっと張り詰めた。 翔太の瞳の奥を覗き込むように、私は言葉をねる。
「あの、翔太さんは毎晩病院に通って病してたって言ってたよね。お母様とで、交代で付き添ってたって」
「……ああ、言ったよ。それがどうしたんだ?」
「本当にお母様とだけで病してたの?」
瞬の沈黙。 リビングの壁に掛けられたモダンアートの計が、カチリと音をてた。
翔太の元から、先ほどまでの穏やかな笑みが完全に消えっていた。
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彼はグラスをローテーブルのにことりと置き、細めた目で私を値踏みするように見据えた。
「……お、姉貴のところにったな?」
その声のさに、私は息を呑んだ。
「姉が何か吹き込んだのか? あいつ、おに余計なことをベラベラ喋ったのか」
「余計なことって何?」
私は歩、翔太へ歩み寄った。逃げたくなかった。真実をらなければ、私はこの底れない沼にを取られて窒息してしまう。
「お姉ちゃんが言ってたよ。翔太さんとお母様に頼まれて、夜の病でお父様のお世話をしてたって。仕事を終えた、毎晩病院に通って、失禁したお父様の体を拭いて、汚れたシーツを取り替えてたって。……本当なの?」
翔太はを鳴らし、嘲るように唇の端を吊りげた。
「頼んだ? 聞きの悪いことを言うなよ。あいつが勝に押しかけてきたんだよ」
「……え?」
「うちの母さんが、父さんが倒れて細そうにしてるのを聞きつけてさ、『私、介護士ですから何かお役にてるといます』って、すり寄ってきたんじゃないか。鈴に取り入りたくて、必になって恩を売ろうとしたのはあっちだろ」
を疑った。 姉が、取り入ろうとした? あの、自分の枚買うのすら躊躇して、妹の私にばかりおを使わせていた姉が、のに媚を売るために毎晩の労働を買ってただと?
「嘘をつかないで!」
私の叫び声が、無質なリビングに反響した。
「お姉ちゃんがそんなことするわけない! 冴子さんと翔太さんが、私の結婚を質にして頼み込んだんでしょう!? 『姉が尽くせば美奈を嫁として認めてやる』って、そうやってお姉ちゃんを脅したんでしょう!?」