"席次表から消された姉" 第10話
だから、本当に助かりました。この方はね、お父様がせん妄で暴れて暴言を吐かれても、決してったり投げしたりしなかった。『丈夫ですよ、克己さん。私がついていますからね』って、優しく声をかけながら、温かいタオルで何も麻痺したをマッサージして……夜けの半まで、ずっとベッドの脇のパイプ子に座って、お父様のを握りしめていらっしゃったのよ」
涙が、ボロボロと溢れしてきた。 止まらなかった。 姉のあの擦り切れた指先が。あの激痩せした体と、目のの濃い隈が。 すべて、このたい病で、の酷さの穴を埋めるために捧げられたものだったのだ。 『数回、様子を見守る程度』などという冴子さんの言葉が、どれほどの顔無恥な嘘であったか。
「あの……お姉さんは、毎晩来ていたんですね? ヶ、ほぼ毎晩……」
「ええ。最のに退院されるまで、ほとんど毎晩いらしてましたよ。病院のスタッフみんな、ががるいでした。『鈴にはあんなにたい族しかいないのに、あのお嬢さんだけが本当の使のようだね』って、ナースステーションでも噂になっていたくらいです」
森さんはハンカチを取りし、泣き崩れそうになる私の肩をそっと抱いてくれた。
「ごめんなさいね、余計なことを話してしまって。
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でも、あなたが婚約者さんなら、っておくべきだとったの。あのお父様、退院される直にはリハビリ病院へ転院されたけれど……あの夜勤のお嬢さんがいらっしゃらなかったら、おそらくも体も持たずに、もっと衰されていたはずよ」
「……ありがとうございます。教えてくださって、本当に……」
私は涙を拭い、何度もをげた。 姉の名誉は守られた。姉がどれほど尊く、どれほどい献で命を支えていたかが証された。 だが、同に、私のには別の、底れない戦慄が広がっていた。
なぜ、そこまで献に尽くしてくれた姉を、あの母子はこれほどまでに憎み、排除しようとするのか? 単なる職業差別や世体だけで、ここまでの悪を向けられるものだろうか。 『私が式にると、あのは困るんだよ』という姉の言葉が、再び脳裏に蘇る。
帰ろうと背を向けた私の背に、森さんがふといしたように声をかけた。
「――そういえば」
を止める。
「あのお嬢さん……お姉さんが、転院の夜、最にこの病にいらしたのことですけれど」
森さんの表に、困惑と、微かな恐れのようなが浮かんでいた。
「夜の頃だったかしら。私が廊の見回りをしていた、鈴さんの個から、言い争うような声と……すすり泣くような声が聞こえてきたんです」
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「え……?」
「普段はとても物静かな病でしたから、驚いてドアの隙からを覗いてしまったの。そうしたら……」
森さんは声を潜め、私の元に囁くように言った。
「麻痺でろくに言葉もせなかったはずのお父様がね、あのしっかりくで、お嬢さんの腕を痛いほどく掴んで、ボロボロと涙を流していらしたんです。まるで、何かに怯えて助けを求めるように」
「お父様が……?」
「ええ。そして、掠れた、絞りすような声で、何度もこう叫んでいらっしゃいました」
森さんの言葉が、私の鼓膜を凍りつかせた。
『頼む……妹さんを、翔太に嫁がせないでくれ』 『あいつらはじゃない……悪魔だ』 『あの子を……あのにづけたら、殺される……!』
病棟のたいが、廊の窓の隙から吹き込んできた。 元から急速に体温が奪われていく。
父親が、実の息子の結婚を泣いて止めていた。 悪魔。 殺される。
あの病で、姉は何を見たのか。 そして、鈴克己という老は、妻と息子から体何を奪われようとしていたのか。
震えるを必ににしながら、私は確信していた。 この結婚は、単なる見栄や格差の歪みなどではない。 もっと暗く、血の通わない、恐ろしい犯罪の匂いが、鈴の『品格』という分い仮面の裏側に、確かに渦巻いていた。
病院のたい廊で護補助者の森さんから聞いた言葉が、私のの奥で、鉛のようなみを持って反響し続けていた。
『あいつらはじゃない……悪魔だ』 『あの子を……あのにづけたら、殺される……!』