"婚姻届の帰り道、残高は1億円だった" 第5話
言葉なに彼はそう言った。軽トラックの助席で揺られながら、私は横目でハンドルを握るそのきなを見ていた。無でべたで、ぶっきらぼう。なのにこういうところだけは妙に実直な。恩返しに来たはずだった。それなのに、その私がずっと考えていたのは、あの無な男のことばかりだった。
それから私は、休みの度にの酒蔵へ通うようになった。病院に見いにき、そので酒蔵による。孝介さんは相変わらず無だったが、私が来ることを拒みはしなかった。蒸したての甘酒をうかと分けてくれたり、帰りの軽トラックでぽつりと酒蔵の昔話をしたり、しずつ私たちのの距は縮まっていった。
ある、私が樽の淵で指を切って血を滲ませていると、孝介さんは何も言えず、古びた救急箱を持ってきて、器用なつきで絆創膏を差しした。護師の私を当てしようとするその器用さがなぜかおかしくて、しだけ嬉しかった。
そんなあるのことだ。酒蔵のに都会のいセダンが止まっていた。見違いのしようほど華やかな女性がっていた。仕ての良いスーツに振りの指輪。の頃は40だろうか。私を見るなりそのは値踏みするようにからまで眺め回した。 「あなたが噂の護師さん? へえ、ったよりな方ね」
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孝介さんがい声で言った。 「玲子、何しに来た?」 「何しにはないでしょう。従妹が酒蔵の様子を見に来て何が悪いの? ねえ、孝介、あなた、この酒蔵がどうして今まで潰れずにいられたか分かっているのかしら?」
女性――玲子は私にも聞こえるようにわざわざらしく声を張った。 「うちがこの蔵に運転資を貸してあげているのよ。もう何もね。私がを差し伸べなかったらとっくにこの酒蔵はに渡っていたわ。謝して欲しいくらい」
そして彼女は再び私に線を移した。 「あなたね、護師のお仕事まで捨ててこんな奥に嫁ぐんですって。正気なの? それとも何か狙いでもあるのかしら? 源郎おじさんがボケれば、このと湧の権利が転がり込む。算段なんでしょう?」
その言葉は鋭い針のように私の胸を刺した。財産目当て。同じ言葉を健太にも言われた。けれどあのとはみがまるで違う。目ののこのははっきりと悪を持って私を侮辱している。反論の言葉はいくらでも浮かんだ。私は恩返しに来たのだと叫びたかった。
それでも私はをつんだ。ここで言い返せば酒蔵の空気が濁る。それは私の望むことではなかった。このので取り乱してはいけない。源郎さんと孝介さんの顔にを塗るわけにはいかない。私はただ静かにをげた。
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「ご配をおかけして申し訳ありません」
玲子は表抜けしたようにで笑った。 「ふうん、せいぜい化けの皮が剥がれないようにね」 彼女は捨てぜりふを残して、いセダンでっていった。
酒蔵に気まずい沈黙が残った。孝介さんは洗いのを止めると、私に背を向けたままく言った。 「すまん、玲子が失礼なことを……」 「いえ、気にしていません」
孝介さんはしを置いて、独り言のように付けした。 「あいつは自分の商売がうまくいっていないらしい。昔から本にのがらんでな、の悪さの裏にあのなりの焦りがあるんだ。かばうわけじゃないが……」
その言葉に私はハッとした。この無なは、を 見す相のことさえこうしてしだけかばうように語るのだ。 そう答えながら、私は1つの疑問を抱いていた。孝介さんはこの酒蔵の主だ。それなのになぜ、運転資を従妹から借りているのだろう。息子である彼がなぜ、実の酒蔵を支えていないのか?
いや、そもそもあの親子は20も絶縁しているのだった。源郎がそれほど気性のいだったことをいす。もしかしたらあのはでも息子に頼りたくなかったのかもしれない。そのの隙に、玲子というがするりと入り込んだ。そんな気がした。考えれば考えるほど、このには私のらないい事が絡みっているようにえた。
そのから、私の酒蔵通いには玲子というさなトゲが加わった。