"恩人弁護士の不可解な書類" 第2話
裁判までけば百万円以。それで相が無職だったら、円も回収できません。正直、割にわないといますね」 「画を消しても、転載されたミラーサイトまで追いきれませんよ。引っ越して、ほとぼりがめるのを待つのが番がりです」
助けてくれるなど、どこにもいなかった。 正義を語る法律たちにとって、私の奪われた常や尊厳など、にならない端数に過ぎないのだ。
軒目にかけたのが、神保町の雑居ビルに事務所を構える「榎本法律事務所」だった。 ウェブサイトはから更されていないような質素なもので、所の顔写真すら載っていなかった。 話にた男の声はく、淡々としていた。
「……とりあえず、記録を持てるだけ持って、今から来られますか。い方がいい」
にるのが怖かった。 つばの広い子を目にかぶり、マスクで顔を覆い、誰とも目をわせないようにして鉄に乗った。 神保町の交差点からしれた裏。築はらないであろうビルの階に、その事務所はあった。
古びたアルミサッシのドアをけると、控えめなベルの音が鳴った。 内は、畳ほどの広さしかなかった。 壁面の棚には背表の褪せた判例集がぎっしりと詰まり、空気には古いとわずかなコーヒーの匂いが混ざりっていた。
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「矢野さんですね。どうぞ、そこへ」
デスクの奥からちがった男が、パイプ子を引いた。 榎本拓と名乗ったその弁護士は、代半ばに見えた。 シャツの袖を肘まで捲りげ、ネクタイはし緩んでいる。 テレビにてくるような洗練されたエリート弁護士の気配は微もなかったが、その双眸だけが、驚くほど澄んでいてかった。
彼は湯呑みに注いだ温かい麦茶を私のに置いた。
「怖かったでしょう。ここまでよく来られましたね」
その言を聞いた瞬、胸の奥で何かが決壊しそうになった。 私は唇を噛みしめ、持参したクリアファイルを震えるで差しした。 印刷した画のキャプチャ画面、き込まれた誹謗傷のログ、の乗履歴が記録された交通系ICカードの利用細。
榎本は鏡をかけ、無言で類に目を通し始めた。 内には、をめくる規則な音だけが響く。 分、分。沈黙がくじられ、私はいたたまれなくなってをいた。
「あの……の事務所では、着だけで数万かかると言われました。私、会社をクビになって、貯もそんなになくて……もし費用がりないなら、相談料だけでもお支払いして、帰ります」
榎本は類から目をし、鏡をした。
「おの話はです。それより、矢野さん。あなたはこの画を投稿したを、どうしたいですか」
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「どうしたい、ですか……?」
「削除させたいだけなのか。謝罪させたいのか。それとも、あなたの活を壊した代償を、きっちり支払わせたいのか」
私は言葉に詰まった。 ただ恐怖から逃れたくて、消えてしまいたくて、それ以のことなど考えたこともなかった。 だが、榎本のまっすぐな線を受け止めているうちに、胸の底に澱のように沈んでいたが、を帯びてせりがってきた。
「悔しいです」
声がかすれた。
「私は、誰も傷つけていません。助けようとしただけです。それなのに、見らぬたちに嘲笑われて、名を晒されて、仕事を奪われて……どうして私だけが、こんな暗い部で怯えて暮らさなきゃいけないんですか。許せません」
榎本は、ゆっくりとうなずいた。
「わかりました。その気持ちがあれば分です。この件、私が引き受けます」
「でも、費用が……」
「着はりません。相から賠償を取れたら、そのから規定の成功報酬をいただきます。取れなければ、私の骨折り損ということでいい」
「えっ……? どうして、そこまで」
見ずらずの、もない派遣社員に、なぜそんな親切をしてくれるのか。 榎本はしだけ困ったように眉をげ、めた麦茶をんだ。
「理尽に殴られたが、殴り返す段すら持てないのは、法という仕組みの敗だからですよ。それに……あなたの持ってきた記録、とても几帳面だ。
乗刻との遅延証、座席の位置までメモしてある。