"恩人弁護士の不可解な書類" 第19話
のダウンコートにを包み、母親らしき初老の女性にを引かれた、梨郁恵さんだった。
顔は青く、取りはおぼつかない。 それでも彼女は、私と目がうと、々とをげた。 私もまた、同じようにをげ返した。 言葉は交わさなかった。だが、互いの瞳のに、同じ痛みをくぐり抜けてきた者同士の、静かな覚悟が通いった。
エレベーターで民事法廷のある階へがる。 廊の苦しい空気の、調のの子に、すでに相方の姿があった。
仕てのいい濃紺のスーツにを包んだ藤堂康則。 その隣には、町で私を脅迫した法務部の及川。 そして、労働事件で企業の代理を数く務めることでられる、神という初老の物弁護士が控えていた。
藤堂は私を見つけると、忌々しそうに舌打ちをし、骨に顔を歪めた。 及川は無表を装っていたが、その線にはたい敵が宿っていた。
「矢野」
藤堂が子からちがり、私のにちはだかった。 く、威圧な声がからってくる。
「お、本当に悔することになるぞ。最のチャンスをやったはずだ。会社の慈を蹴ばして、こんな舟に乗ったことを、骨の髄までいらせてやるからな」
その言葉に、以の私ならが竦んでいたかもしれない。 だが、今の私には、その恫がただの焦りにしか見えなかった。
広告
「藤堂専務」
私は歩も引かず、男の目を正面から見据えた。
「脅迫は、法廷のだけにしてください。では、通用しませんから」
藤堂の顔がりで赤く染まった瞬、扉がき、記官が厳かな声で呼びした。
「令(労)第〇〇〇〇号、当事者の方、お入りください」
京裁第民事部、労働審判。 央のい位置に裁判官(審判)が座り、そのに労働関係の専である名の労働審判員が並んでいる。 部の央を挟んで、原告側と被告側のいテーブルが向かいっていた。
原告席には、榎本先、代理の坂井弁護士、梨さん、そして私。 被告席には、神弁護士、及川法務部、そして藤堂。
内の空気は、の空よりも張り詰めていた。
「それでは、第回審判期を始します」
審判の乾いた声が響いた。
「回の期において、相方より解案の提示がありましたが、申側からの回答をお願いします」
を切ったのは、榎本先だった。 彼はちがり、元の類を切見ずに、を向いた。
「相方から提示された解案については、到底受け入れられません。相方は申の精神困窮に付け込み、銭による事実の隠蔽と、本件の証である矢野真氏に対する封じを画策しました。当方はこれを断固として拒否し、審判による厳正な事実認定を求めます」
広告
相方の神弁護士が、で笑うようにちがった。
「審判、失当です。申側は本件に関係のない第者、しかも過にSNSでなトラブルを起こし、社会信用を完全に失墜している元派遣社員を証として引き入れ、審理を混乱させようとしています。さらに言えば、この矢野真という物は、籍に会社の経費を正に領得していた業務横領の被疑者です。現、弊社法務部において刑事告訴の続きをめております。このような犯罪傾向を持つ物の証言に、証拠能力など微もありません」
及川が勝ち誇ったように顎を引いた。 藤堂は腕組みをし、私を嘲笑うように見ろしている。
を投げつけ、相を汚し、言葉の価値そのものを奪う。 それが、彼らのいつものやりだった。
だが、榎本先は微だにしなかった。
「相方代理は、矢野氏の社会信用を毀損する発言を繰り返していますが、事実誤認もだしい」
榎本先は鞄から通の類を取りし、記官へと渡した。
「甲第号証、京簡易裁判所における民事調調の謄本です。矢野氏が巻き込まれたの画事件は、第者による悪質な盗撮および図な画編集によるものであり、加害者本が事実無根を認めて謝罪し、賠償を支払うことで完全に解決しております。
矢野氏は切の非のない、完全な被害者です」