"レジ打ちの妻は恥ずかしい" 第4話
じわじわと広がる染みを、翔平は見向きもしなかった。
「もういい。おがそんなにの固い女だとはわなかったよ」
翔平はジャケットを乱暴に掴み取ると、玄関へと向かった。
「招待状はもう全部発送したんだ。親戚も、うちの会社の司もみんな来るんだよ。今さら引き返せるとうなよ。おがその気なら、母さんに直接話してもらうからな。来週、母さんがここに来る。おみたいな世らずには、のルールを徹底に叩き込んでもらうから覚悟しろ」
バダン、と暴力な音をてて玄関のドアが閉まった。 オートロックの属音が、夜のマンションの廊にく響き渡る。
リビングには、私だけが取り残されていた。
テーブルので倒れた缶ビールから、アルコールのツンとした匂いが漂っている。私はキッチンから布巾を持ってくると、無言でビールを拭き取った。 濡れてふやけた『退職届』を指先でつまみげ、ゴミ箱へと落とす。
涙はなかった。 泣くよりも先に、胸の奥底で何かが急速にえて固まっていくのが分かった。
これが、私がし、を共にしようと決めた男の正体だった。
彼は、私の自をしていたのではない。 ただ、自分に都よく従順で、頃な価格の女として私を値踏みしていただけなのだ。 『にがついている』という褒め言葉は、彼にとって『がりで、文句を言わない』というでしかなかったのだ。
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私は寝へき、自分の私物を入れているチェストの引きしをけた。 奥から取りしたのは、冊の通帳と、領収をまとめたクリアファイルだった。
通帳をく。 そこには、私が代のすべてを注ぎ込んで貯めてきた、百万円の数字が刻まれていた。 これは、もしもののための備えであり、将来まれてくるかもしれない子どものための教育資として、私が誰にも頼らずに貯めてきたおだった。
そして、もう冊の通帳。 の結婚準備のために作った、共同名義の座だった。 毎、お互いに万円ずつをしって、式のや居の契約費用を支払うためのものだ。
私はクリアファイルから、ここ数かの結婚準備にかかった領収を引っ張りした。 居の敷・礼、仲介数料。 量販で買った型蔵庫とドラム式洗濯。 ウエディングドレスの試着内、撮りの撮費用。
枚枚、支払いの名義を確認していく。 ……奇妙だった。
「これ……全部、私のカードから落ちてる?」
居の初期費用万円、私の座からの引き落とし。 の計万円、私のクレジットカード払い。 式への申込万円、私の現払い。
翔平はいつもこう言っていた。 『今は営業の経費て替えがくて持ちがないから、千のカードで切っておいてくれ。
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あとで共同座からまとめて精算するからさ』
その言葉を信じて、私は疑いもせず自分のカードを差ししてきた。 だが、共同座の残を見ると、の貯額はわずか万円しかなかった。翔平は最初のかこそ万円を振り込んでいたが、ここかは『冠婚葬祭がなった』『の検代がかかった』と言い訳をして、円も入していなかった。
つまり、この結婚のために実際にいているおの割以は、私の貯からているのだ。
『おみたいな学歴も柄もない女を、俺の稼ぎだけで暮らせる専業主婦になれるんだぞ』
先ほどの翔平の鳴り声が、ので霊した。 私の稼ぎを見し、私の仕事を「銭数え」と嘲笑った男が、実際には私の貯に寄してこの結婚活のスタートを切ろうとしている。
乾いた笑いが、私のから漏れた。
ピロン。
静まり返った部に、スマートフォンの無質な着信音が鳴り響いた。 画面を見ると、メッセージアプリに表示された送り主の名に、私の指が止まる。
『悦子』
翔平の母親だった。 普段はスタンプつ送ってこない准姑からのメッセージは、画面をスクロールしなければ全体が読めないほどの文だった。
『千さん、夜分遅くに失礼します。 先ほど翔平から話がありました。
あなたが仕事を辞めないと言い張り、翔平を酷く傷つけたそうですね。