"レジ打ちの妻は恥ずかしい" 第15話
料理の器がガタガタと音をててねる。
「伯父さん……」
「見栄のために借をね、婚約者の女性が額に汗して貯めたをあてにし、あまつさえその母親を恫して持参を求したというのか!? の名誉だと!? 世体だと!? どのがそれを言うか! の尊厳を踏みにじり、誠実に働く女性を『レジ打ち』と蔑み、その実態はのに寄するただの詐欺師まがいの男ではないか! この馬鹿者が!!」
宗様の号が、個の井を突き破らんばかりに響き渡った。 悦子は青ざめてガタガタと震え、翔平はを抱えて子ので縮こまった。 かつて彼らが誇らしげに掲げていた「の格式」というハリボテが、瞬にして瓦解した瞬だった。
私は静かに、バッグから最の類を取りした。
『婚約破棄』。 政士と相談し、法に完璧な式で作成した面だった。
「翔平さん。あなたとの婚約を、本付で正式に破棄いたします」
「え……」
「式のキャンセル料、ならびに式への違約は、全額あなたの責としてでご負担いただきます。また、私がこれまでにて替えた居の初期費用、購入費用、付の計、百万円。こちらの返済誓約に署名捺印をしてください。期はです」
「さ、百万……!? そんな、今すぐ払えるわけないだろ!」
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翔平が鳴のような声をげた。
「払えなければ、与の差し押さえ続きに入ります。この借入細とメモを添えて、裁判所に申してをうだけです。……そうなれば、あなたの会社のコンプライアンス部や司の方々も、あなたがどのような『営業チーフ』であるかをることになるでしょうね」
「ひっ……!」
会社の名をされた瞬、翔平の喉から引きつった音が漏れた。 彼が何よりも執着していた「会社の板」と「世」。それが、自分の撒いた種によって完全に握り潰されようとしていることに、ようやく気づいたのだ。
私はを持ちげ、薬指にはまっていたプラチナの婚約指輪をゆっくりと引き抜いた。 そして、翔平の目ののテーブルのに、コトリと音をてて置いた。
「返します。の丈にわない偽物の指輪なんて、私の指にはすぎました」
「千さん……待ってくれ、頼むから! 話せばわかる! 俺が悪かった、俺が全部悪かったから!」
すがりつこうとする翔平のを、私は氷のようにたい目で見つめ、払いのけた。
「お義母様」
私は最に、震えている悦子をまっすぐに見据えた。
「あなたが仰った通り、私と翔平さんは釣りいませんでした。 朝から晩まで汗を流して働き、円のみをる私と、ので見栄を着飾り、を職業で値踏みすることしかできないあなた方とでは、きている世界の品性が違いすぎました。
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……度と、私の族のに現れないでください」
私はちがり、宗様に向かってく、々とをげた。
「宗様、本はおをいただき、誠にありがとうございました」
「……千さん。族のとして、本当に申し訳ないことをした。わせる顔もない」
宗様はくを垂れ、私に詫びた。
私は度も振り返ることなく、料亭の個をにした。 背から聞こえてくる悦子の泣き叫ぶ声も、翔平の取り乱した叫び声も、坪庭を渡るのへと消えていった。
私のには、何の未練も残っていなかった。 ただ、背負わされていたい鉛の枷を、自分ので叩き割ったような、たく澄み切った解放だけが広がっていた。
そのの夜。 私が職にいウィークリーマンションので、荷解きを終えたのことだった。
では、たいのが激しくり始めていた。 窓ガラスを打ちつける音を聞きながら、私は温かい緑茶を淹れ、テーブルに置いた。 からはまた、スーパーの朝番のシフトが入っている。部や島田さんが待ってくれている私の売りへ、胸を張って戻るのだ。
ドンドン! ドンドン!
突然、い玄関ドアを激しく叩く音が響いた。
「千! 千、頼む! けてくれ!」
息を切らし、狂ったようにドアノブをガチャガチャと回す音。 翔平だった。
「千! お願いだ、に入れてくれ! 話を聞いてくれよ!」