"何番まで落ちたら離婚するの" 第4話
「雅、これを見て」 「あ?」 「見てよ! これ、翔太がいたのよ。あの子、わざと点数をコントロールしてたの。最初から、50点台になるように計算して……!」
雅は私の鬼気迫る表に圧倒されたのか、鬱陶しそうに答案に線を落とした。 くかれた計算式と、『目標:58点』の文字。
そのだった。 私は見逃さなかった。
雅の目が、その数字を捉えた瞬。 彼は驚きもしなかった。 「なんだこれは」と声を荒げることも、「信じられない」と狼狽えることもなかった。
ただ、ほんの瞬、その細い喉仏がごくりとし、居の悪そうに線を逸らしたのだ。 まるで――こうなることを、最初からっていたかのように。
「……雅?」 私の声が、疑惑に震えた。 「あなた、ってたの?」
雅は答えなかった。 ただく、底のない溜息を吐きし、突きつけられた答案用から線をすと、背を向けてキッチンへと歩きした。
「おい、はどこだ」 「誤魔化さないで! あなた、翔太が何をしてるかってたんでしょう!? あの子がなんであんなことを言ったのか、理由をってるんでしょう!?」
私は雅の肩を掴もうとした。 だが、雅はそれをたく振り払った。首に乾いた衝撃がる。
「るわけないだろうが!」 雅はく、だが鋭い声で吐き捨てた。 「俺がってるのはな、おがあいつを追い詰めて、壊しかけてるってことだけだ。
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いいか、これ以あいつを問い詰めるな。余計なことを詮索するな。あいつがこれ以おかしくなったら……全部おの責任だからな」
「私の……責任?」
雅はコップにを注ぎ、それを気にみ干すと、度と私を見ようとはせず、寝へと戻っていった。 カチャリと鍵のかかる音がした。
残されたダイニング。 え切ったテーブルのに並ぶ、精緻に計算されたいバツ印の答案。 そして、夫のあの、すべてを諦めきったような、たい線。
私のらないところで、このの何かが、決定に壊れていた。 そしてその亀裂の底には、私の像も及ばないような、暗くい秘密が横たわっている。
私は震えるで、翔太の跡をなぞった。 『目標:58点』 そのさな数字が、まるで助けを求める子供の鳴のように、静寂のでいつまでも消えずに残っていた。
翌朝の卓は、気なほど穏やかだった。
昨夜の激しい言い争いや、テーブルに散らばったあの赤ペンだらけの答案用が、まるで私の悪が見せた覚だったかのように、いつも通りの朝が訪れていた。
「お母さん、今のお弁当、卵焼き甘いほうにしてくれた?」
制のブレザーに腕を通した翔太が、階段をトントンと軽な取りでりてきて、ダイニングの子を引いた。 寝癖ひとつない黒髪。清潔に糊のきいたいシャツ。
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昨夜、あの底えするような声で『は婚するの?』と問いかけてきたと、目ので焼き鮭の皮を箸で器用に剥がしているが、どうしても同物にはえなかった。
「……ええ、いつも通り、しみりんをめにしてあるわ」 私の声は、どうしてもぎこちなく掠れた。 翔太の顔を覗き込もうとするが、息子はただにこやかに、トーストをに運んでいる。その表には、罪悪も、怯えも、挑発のすら微も浮かんでいない。
洗面所から、顔を拭きながら雅がてきた。 スーツ姿の夫は、卓につくこともなく、キッチンカウンターののコーヒーを気に呷った。 「ってくる」 「雅、朝は……」 「いらない。今朝は役員会がある」
雅は私と度も目をわせようとしなかった。翔太のにぽんとを置くことも、昨夜の答案について何か言葉をかけることもない。 ただ、玄関へ向かうその背は、見えないを引きずっているかのように丸まっていた。 カチャリと玄関の鍵がき、そして閉まる。
リビングに残されたのは、トースターの微かな作音と、翔太が噌汁を啜る音だけだった。
「翔太」 私はを決して、息子の向かいの席に座った。 「昨のこと、だけど」 翔太は箸を止め、首を傾げた。 まるで、昨の宿題の範囲を尋ねられたのような、屈託のない物のような仕だった。
「昨のことって?」 「あの……点数のことよ。わざと違えたって、言ってたじゃない。