"何番まで落ちたら離婚するの" 第5話
それに、お父さんとお母さんのこと……」
翔太はほんの瞬だけ、箸を握る指先に力を込めた。 だが、次の瞬には、いつもの完璧な『のかからない良い子』の笑みを浮かべていた。
「ああ、あれね。僕、ちょっと寝ぼけてたみたい。模試が続いて、し疲れちゃってたのかな。ごめんなさい、お母さん。配かけちゃったよね」 「寝ぼけてたって……でも、あの計算メモは」 「もう丈夫だから。今の確認テストは、ちゃんと満点取ってくるよ。じゃあ、ってきます」
翔太は器を流し台へ几帳面に運び、リュックサックを背負うと、私の返事も待たずに玄関へとりで向かった。 パタン、と軽やかな音をててドアが閉まる。
リビングに、取り残された。 空になった噌汁の椀と、綺麗に骨だけが残された鮭の皿。 胸の奥で、鉛のようなものがじわりとを帯びていくのをじた。
嘘だ。 あの子は、今、確実に嘘をついた。 あの精緻に計算された点数のコントロール。裏面にびっしりとかれた減点のシミュレーション。あれが『寝ぼけていた』『疲れていた』などという言葉で片付けられるはずがない。
翔太は、昨夜の自分のを、急いで塗り潰そうとしている。 親にそれ以踏み込ませないために。 あの笑顔は、私をさせるためのものではなく、私をざけるための分い防壁だった。
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――翔太が位を取ったら、は婚するのか。
なぜあの子は、そんな突拍子もない結びつきを信じ込んでいるのか。 誰かが翔太に余計なことを吹き込んだのだ。 あるいは、私が気づかないどこかで、あの子のを歪めるような来事が起きていた。
計を見げると、針は午を指そうとしていた。 私は化粧もそこそこに支度をえ、のキーを握りしめてをた。
*
目指したのは、駅にある学塾『啓ゼミナール』だった。 県内でも屈指の格実績を誇るこの舎に、翔太は学のから通っている。 ビルの階にある受付へを踏み入れると、壁面に貼りされた難関学の格冊と、模試の成績優秀者の名が目にび込んできた。 最位クラスの欄の番には、先まで常に『森 翔太』の文字が誇らしげに君臨していた。
「あ、森さんのお母様。どうされましたか? 面談の予定は来週だったかといますが」
フロアの奥から現れたのは、翔太の所属する最位特クラスの担任であり、副を務める宮本先だった。 代半ばの、いかにも受験指導のプロといったの鋭い目つきをした男性だ。
「突然申し訳ありません、宮本先。し、お伺いしたいことがあって……」
通されたさな個別面談は、防音壁に囲まれていての音が遮断されていた。
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私はプラスチックのパイプ子に腰をろし、震えるでバッグから昨夜の答案用を取りした。
「これ……昨夜、翔太のリュックから見つけたんです」
宮本先は鏡のブリッジを押しげ、枚の答案に線を落とした。 数字を見た瞬、その眉がピクリとく。
「52点、ですか」 「先、当たりはありませんか? 最、翔太の塾での様子におかしいところはありませんでしたか。この答案、よく見ていただければ分かるとうのですが……半の難問は完璧に解けているのに、番最初の計算や漢字ばかり、わざと落としているんです」
私はすがるようないで宮本先を見つめた。 学や塾で、何かトラブルがあったのではないか。誰かに脅されていたり、からかわれたりして、目たないように点数を落とそうとしたのではないか。 そんな部の理由であってくれと、のどこかで祈っていた。
だが、宮本先は答案用をゆっくりと机に戻すと、苦しい沈黙を落とした。 その表には、驚きのがあまり見られなかった。
「……お母様。実は、私の方からも々、ご両親にお話しなければならないとっていたところでした」 「え……?」 「翔太君の成績が、ここヶほど極端に定になっていることは、塾側でも把握していました。ただ、スランプというよりは……集力が完全に途切れてしまっているような状態でした」
宮本先は両を組み、慎に言葉を選びながら語り始めた。