"父の逝った夜の車" 第2話
姉が結婚する、相のから見されないようにと、父親代わりとして派な持参を用してくれた。 私の成式にも、し照れくさそうに「これで好きな着物を仕てなさい」と包みを渡してくれた。
町のも、親戚も、みんなを揃えて言った。 「孝司さんは仏様のようなだ」「甥や姪のために自分の結婚も諦めて尽くしている」と。
兄も姉も、伯父を本当の父親のように慕っていた。 何かあれば真っ先におじさんに相談し、盆や正には必ず顔をし、謝をにしていた。
けれど、私だけがどうしてもできなかった。
幼い頃から、伯父がに来ると、私はいつも自分の部に閉じこもっていた。 母に「おじさんに挨拶しなさい」と背を押されても、居の襖のから顔を半分だけし、蚊の鳴くような声で「こんにちは」と言うのが精杯だった。 伯父が差ししてくれる菓子折りも、を撫でようとして伸ばされるも、どうしても受け入れられなかった。
族はみんな、「千鶴は極度の見りだから」「父親をくにくしたせいで、の男のが苦なんだ」とい込んでいた。 私自も、ずっとそうだとってきてきた。 歳になり、自分も会社員として働き、世の義理やが分かるようになってからも、伯父ときりになることだけは本能に避けていた。
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自分は恩らずで、性格が歪んでいるのだと、どこかで自分を責め続けていた。
でも、違った。
今、を擦った子の音と、あのタバコと油の混ざったの匂いを嗅いだ瞬、私のの奥底で、固く閉ざされていた扉が音をててねがったのだ。
私は、おじさんが嫌いだったんじゃない。
――怖かったんだ。
臓が鐘を打ち、喉がからからに渇いていく。 呼吸が浅くなり、自分の指先が刻みに震えているのが見えた。
鮮な映像が、私の網膜の裏に焼き直されていく。 の、のある夜。 台が直撃し、トタン根を剥がすような暴が吹き荒れていた、あの夜の景が。
「……千鶴ちゃん、丈夫かい。顔が悪いよ。寒気がするのか?」
伯父がテーブルのを拭き終え、配そうに私の顔を覗き込んできた。 その目には、いつもの温で、し頼りなげな優しさが宿っている。 額にはい皺が刻まれ、髪の混じった髪はしくなっていた。
このが。 私のを支えてくれたはずのこのが。
のあの夜、灯も届かない真っ暗な実の庭先で、のライトを消したまま、エンジンをく唸らせて佇んでいたのだ。
「……すみません、ちょっと、気分が悪くて。お洗いにってきます」
私は兄と姉の線を振り切るようにちがり、個の引き戸をけて逃げした。
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背で兄が「あいつ、本当に……」と声でため息をつくのが聞こえたが、振り返る余裕はなかった。
居酒の狭いトイレに駆け込み、鍵を閉めて便座の蓋のに崩れ落ちた。 換気扇が回る音だけが響く個ので、私は両で顔を覆った。
歳だったあの夜の記憶が、濁流のように脳内を満たしていく。
*
の。 型の台が県内を通過していた。
夜のを過ぎても、父は帰ってこなかった。 父・沢渡正彦は当歳。真面目で数がなく、元の運送会社で距トラックの運転をしていた。 母の節子は、台所の窓を叩くの音を聞きながら、何度も居の黒話の受話器をげては、通話音が鳴っていないのを確かめてろしていた。
当だった兄の健は、学の部活の征で隣県にており、台でが止まったため現の旅館に止めされていた。 学だった姉の美咲は、夕方にをして階の部で寝込んでいた。
階の茶のにいたのは、母と私のだけだった。
「お父さん、遅いね」
私が尋ねると、母は無理に角を持ちげて、私のを撫でた。
「そうね。でも台だから、スピードをさないように慎にってるのよ。千鶴はもうお布団に入りなさい」
私は言われた通り、茶のの隣の畳に布団を敷いて横になった。
けれど、が戸をガタガタと激しく揺らす音と、折柱が軋むような気な音が怖くて、とても眠れなかった。