"父の逝った夜の車" 第8話
『松田さん、頼むから来まで待ってくれ。今、取引先の形が落ちなくて、従業員の料すら払えないんだ。万円の部品代が、どうしても今すぐせない』って……」
「……」
「俺は止めたんだ。それなら代をすから、このは乗るな、特に荷物を積んでを越えるような仕事には絶対使うなって。孝司さんも『分かった、敷内に止めておく』って言ったんだ。それなのに……あの台の晩、正彦さんがそのに乗って、あの峠をっていった」
「父は……ブレーキが壊れていることをらなかったんですか?」
「るわけがないだろう!」
松田さんが声を荒らげ、すぐにハッとして元を押さえた。 荒い息を吐きながら、彼は首を振った。
「正彦さんは運送のプロだ。いくら台だからって、ブレーキが利いてりゃあんなガードレールを突き破るようなヘマはしねえよ。現のには、スキッドマーク(タイヤの滑り痕)が切残ってなかった。つまり、ペダルを踏み抜いたのに、油圧が抜けてスカスカになって、減速すらできずに底へび込んだんだ」
のが真っになった。
「事故の、警察から問いわせが来た。両の備状況はどうだったかって。俺は……」
松田さんのが震えていた。
「俺は、嘘をついた。『直に点検したが、異常はなかった。台のがドラムに入り込んでに利かなくなったんだろう』ってな。
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そう証言したんだ」
「どうして……どうしてそんな嘘を!」
「孝司さんが、座したからだよ!」
松田さんの目から、涙が筋こぼれ落ちた。
「この事務所のにな、額を血がるまで擦り付けて泣き叫んだんだよ。『俺のせいで兄貴がんだ、俺が殺した、でも今俺が捕まったら、残された節子義姉さんとの子どもたちはどうなるんだ、俺がかけてあいつらを育てるから、頼むから見逃してくれ』って……! 俺も、正彦さんとはガキの頃からの付きいだった。残されたあんたたちの顔が浮かんで……警察に本当のことが言えなかったんだよ!」
事務所のに、苦しい沈黙が満ちた。 壁の古い掛け計が、チク、タク、と無にを刻んでいる。
おじさんの過失だった。 を惜しんでブレーキを直さず、放置していた危険な。 それに父を乗せ、父はんだ。
そして伯父は、自分の罪を隠すために備士に偽証を頼み、その「贖罪」として、私たち兄妹にを注ぎ込んできたのだ。
美談なんかじゃなかった。 をにして尽くす聖などではなかった。 ただの――自分の過失で義兄をなせた男が、警察から逃れ、獄のような罪悪から逃れるために、で私たちの未来を買い取っていただけだったのだ。
「……千鶴ちゃん」
松田さんが、枯れた声で私の名を呼んだ。
「あんたの気持ちは分かる。
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だがな、孝司さんがこの、どんないできてきたかも見てやってくれ。あのは自分の料のほとんどをあんたたちの学費や活費に回して、自分はずっとあのボロの角で、えたカップ麺をすすって暮らしてきたんだ。結婚もしないで、贅沢つしないで……あれは、きながら刑務所に入っているようなもんだったぞ」
「だからって……!」
私の喉から、りとしみが混ざりった叫びが漏れそうになった。
「だからって、父の命が戻ってくるわけじゃないです! 私たちは……私は、父を殺したのおで、育てられたんですか……?!」
答えを待たずに、私はちがった。 「千鶴ちゃん!」と呼び止める松田さんの声を背に浴びながら、私はのへと駆けした。
の眩しいが目に染みて、涙が溢れた。 拭っても、拭っても、止まらなかった。
*
気がつくと、私はまれ育った借のにっていた。
母が病気でくなってから。 主の好で、建物は解体されずにそのまま残されていたが、庭は膝丈まで雑がい茂り、製の戸はに晒されてに変していた。 借権の理もつかないまま、放置されている廃だった。
私はポーチの植鉢のに隠されていた、錆びついた鍵を取りした。 鍵穴に差し込み、力を込めて回すと、キリキリと属が鳴をげて鍵がいた。
玄関の引き戸をけると、カビと埃の混ざった、懐かしくも息の詰まる匂いがを突いた。