"父の逝った夜の車" 第15話
本来ならな、に倒産処理……破産宣告をして、借を帳消しにして楽になるべきだったんだ」
坂本さんの言葉が、私の元を揺るがした。
「でも、孝司さんは破産を選ばなかった。なぜだか分かるかい? 破産をすれば、官報に名が載る。親族の信用調査に響がるかもしれない。何より、健くんがをて就職する、元保証になってやれなくなる。だからあのは、何千万円という会社の債務を、全部個の借として背負い直したんだよ」
「個の……借……?」
「そうだ。健くんの就職のためにあちこちへをげて回ったも、美咲ちゃんの結婚式で百万円をしたも、あのには円の内部留保もなかった。あの百万円はな、孝司さんが自分の老のためにく積みてていた国民基を、解約して作っただ」
を鈍器で殴られたような衝撃がった。
「を……解約……?」
「ああ。ペナルティで元本割れして、将来もらえるが雀の涙になるのを承で、全額叩きしたんだよ。『美咲ちゃんが嫁ぎ先で肩の狭いいをするくらいなら、俺の老なんてどうでもいい』って言ってな。あんたのの学費だってそうだ。毎毎、械の油でを真っ黒にして、夜までで請けのバリ取りをして作っただ。あのはな、自分のを着も買わず、のカップ麺で胃を壊しながら、あんたたちにを送り続けたんだ」
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坂本さんは、の錆びた根を指差した。
「、の担当者が俺と緒に孝司さんを説得したんだ。『もういいでしょう。甥も姪も独りちした。を畳んで、自己破産して、活保護を受けなさい』ってな。そうすりゃ、あのは今頃、エアコンの効いた営宅で、温かい飯をえてたはずなんだ」
坂本さんの声が、りに震えていた。
「でも、孝司さんは首を縦に振らなかった。『まだ千鶴ちゃんが結婚してない』『あの子が誰かと庭を持つまで、俺が父親の代わりにろ盾でいてやらなきゃならない』って……そう言って、このボロに居座り続けたんだよ! それを……罪滅ぼしだと? の平穏を買い取っただけだと?! あんた、自分の言ったことのさが分かってんのか!!」
呼吸ができなかった。 酸素が肺に入ってこない。
を解約した。 自分の老を捨てた。 破産すら拒んで、借を背負い続け、カップ麺をすすりながら、私の「ろ盾」になるためだけに……。
そんな罪滅ぼしが、この世のどこにあるというのだろう。 そこまで自分を破壊しなければならない贖罪が、体どこにあるというのだろう。
「……あ、あ……」
私の喉から、掠れた声しかなかった。 から力が抜け、砂利に崩れ落ちそうになるのを、必で堪えた。
「……千鶴ちゃん。あんなはな、もう度と現れないよ」
坂本さんは背を向け、カブに跨がった。
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「あんたがおじさんを許せないなら、それでもいい。だがな、あのがあんたたちに注いだものは、罪滅ぼしなんてっぽい言葉で片付けられるもんじゃない。それだけは、忘れちゃいけないよ」
キックペダルが踏みろされ、い排気ガスを残して、カブはの向こうへとりっていった。
夕が急速に濃くなり、川面を黒く塗りつぶしていく。 私は、砂利のにち尽くしていた。 の先が、氷のようにたかった。
私は何を誇らしげに、あのを断罪したのだろう。 傷を抉り、座をさせ、度と会わないと言い放った自分の傲さが、鋭いトゲとなって胸に突き刺さる。
逃げるように駅へ向かい、にび乗った。 窓に映る自分の顔は、幽霊のように青く、醜かった。
アパートの最寄り駅に着いたのは、夜のを過ぎた頃だった。 改札をて、暗い夜を歩いていると、ポケットのでスマートフォンが激しく震えした。
画面を見ると、『健兄ちゃん』の文字が表示されていた。 昼、あれほど激しく鳴りって切れたはずの兄からの着信だった。
躊躇いながらも、通話ボタンを押した。
「……もしもし」
『千鶴ッ……!』
兄の声は、昼とはまるで違っていた。りではなかった。 息が絶え絶えで、パニックを起こして泣き叫ぶような声だった。
『千鶴、今どこだ?! すぐ県央病院に来い! く来い!!』