"父の逝った夜の車" 第16話
血の気が気に引いた。
「え……? な、何があったの……?」
『おじさんが……孝司おじさんが、倒れたんだよ! の旋盤ので、血を吐いて倒れてるのを所のが見つけて……! 救急で運ばれたけど、肺止状態で……今、蘇措置なんだ!!』
の奥で、何かが激しく弾ける音がした。
「嘘……嘘でしょう……?」
『く来い! 美咲も今、向かってる! 千鶴、く……!』
話が切れた。 スマートフォンの画面が暗転した。
私の界も、同じように真っ暗になった。
さっき見た、あの激しい咳き込み。 机のに散らばっていた量の薬のシート。 に擦り付けられた、さく丸まった背。
「おが俺を憎むのは当たりだ。すまなかった……本当に、すまなかった」
私のの奥で、伯父の最の言葉が、恐ろしい反響を伴って霊した。
私が殺したのだ。 、ボロボロになりながら耐え抜いてきたあのの、最のの支えを、私が々に叩き壊したのだ。
「あ……ああああっ!」
私は叫び声をげながら、夜のを逆方向へとりした。 タクシーを拾うために、通りへと無でをかした。 涙でが見えなかった。何度もをもつれさせながら、ただった。
*
県央病院の救命救急センターは、夜の静寂を切り裂くような異様な緊迫に包まれていた。
自ドアをくぐり、受付を抜けて処置のの廊へると、壁に背をもたれさせてを抱えている兄の姿が見えた。
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兄のシャツの袖には、どこでついたのか、黒い械油とが擦りつけられていた。 その隣の子では、駆けつけた姉の美咲が、両で顔を覆って声を殺して泣いていた。
「……兄ちゃん!」
私の呼び声に、兄が弾かれたように顔をげた。 兄の目は真っ赤に充血し、唇は血の気を失ってに変していた。
「千鶴……」
兄はちがり、私の肩を掴もうとしたが、そのの力は々しく震えていた。
「おじさん、どうなったの……?!」
「……今、先たちがで……静脈瘤の破裂だって言われた。吐血して、窒息しかけて……血圧ががらないんだ。それに、昔から肺も臓もボロボロだったらしくて……いつ臓が止まってもおかしくないって」
兄の声が掠れ、涙がポタポタとのいリノリウムに落ちた。
「らなかったんだよ……俺、何もらなかったんだ。おじさんがこんなになるまで体を壊してたなんて……先週会ったも、元気そうに笑ってたから……」
美咲が子からちがり、私の胸に縋り付いて泣いた。
「千鶴、ごめんね……私、昼、グループ抜けちゃって……怖かったの。お父さんののことも、おじさんのことも……でも、おじさんがんじゃったら嫌だよ……おじさんがいなくなったら、私、どうしたらいいの……」
私は姉の震える背を抱きしめながら、ただ処置のい扉を見つめていた。 赤く点灯した『処置』のサイン。
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あの扉の向こうで、伯父の細い命のが、今まさに消えようとしている。
私のせいだ。 私が追い詰めたからだ。 喉の奥が張り裂けそうだった。神様がいるなら、私の命を削ってでも、あのを助けてほしかった。
その、処置のドアがき、マスク姿の護師がてきた。 には、透なプラスチックのトレイが握られていた。
「沢渡孝司さんのご族の方」
「はい!」
兄がにびした。
「容態は……?!」
「今、気管挿管をして、止血処置を続けています。集治療へ移する準備をしていますが……極めて厳しい状態です。覚悟だけは、しておいてください」
護師の沈痛な言葉に、美咲がさな鳴をげてそのに崩れ落ちた。
「こちらは、患者さんがにつけていた所持品です。貴品が含まれていますので、ご族の方で確認して保管してください」
護師はトレイを差しした。 には、物のライター、の鍵束、そして――の使用で端が擦り切れ、黒ずんだつ折りの茶い革財布が入っていた。
兄は震えるでそれを受け取ろうとしたが、指先が張ってトレイを落としそうになった。
「……俺には、見られない」
兄は首を振り、顔を覆った。
「俺は……おじさんに甘えてばっかりで……何も返せてないのに……こんなもの見たら、がおかしくなりそうだ……」
「私が、預かります」
私は兄からトレイを受け取った。
指先に触れた財布は、驚くほど軽かった。