"父の逝った夜の車" 第18話
美咲の声が裏返った。両で元を押さえ、見かれた瞳から涙がボロボロと溢れす。
「お父さん、病気だったの……? そんなの、聞いてない……お母さんからも、誰からも……」
「俺だって聞いてない!」
兄はちがり、診断を握りしめたまま、処置のい扉を睨みつけた。
「なんで……なんでこの診断を、おじさんが持ってるんだよ! も、自分の財布の底に隠して……どういうことなんだよ、千鶴!」
私に詰め寄る兄の目は、りと混乱で血っていた。 昼、実で見つかった母のをめぐって私を鳴りつけたの険しさは、もうどこにもなかった。元から世界が崩れっていくのを必で拒絶しようとする、傷ついた子どもの顔だった。
「……おじさんののブレーキが壊れていたのは、本当だった」
私は壁に背を預け、たいコンクリートの触を背骨にじながら、静かにをいた。
「昼、備の松田さんに会ってきた。あの軽トラックは、最初からり坂で減速できない状態だったの。おじさんもそれをっていた。だけど……父は、その壊れたをわざわざ選んで、あの台の夜に峠へ向かったのよ」
「選んでって……そんなわけないだろ!」
兄が叫んだ。 夜の廊にその声が響き渡り、詰所の護師が咎めるようにこちらを見たが、兄は気づきもしなかった。
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「お父さんが、ぬためにに乗ったって言うのか?! 俺たちを置いて、そんなことするわけないだろ! あんなに真面目で、族いだったお父さんが……!」
「そうよ、族いだったからよ」
私の声は、驚くほど静かに落ちた。
「実の押し入れの底に、お母さんがいたがあったの。そこにはね、『子どもたちにだけは、父親が名誉なに方をしたとわせてはならない』っていてあった。お父さんが命を賭して守ろうとしたものを、おじさんの罪滅ぼしで壊すな、って……」
美咲がそのにへたり込み、に額を押し当てるようにして泣きじゃくった。
「嫌……もう嫌……何なのよ、それ……じゃあ、お父さんは自分で……?」
「まだ、分からない」
私はを見つめた。
「全部をっているのは、あの扉の向こうにいるだけよ。私たちを、自分のを全部捨てて育ててくれた……あのだけなの」
のに、言葉が途絶えた。 壁の計の針が、午を回った。 、母がまみれで実の敷居を跨いだのと、ちょうど同じ刻だった。
夜がけるまでの数、私たちは誰としてベンチからかなかった。 たい缶コーヒーのぬるくなった缶を握りしめたまま、ただひたすらに、集治療のランプが消えるのを待っていた。
*
集治療から般の個病棟へ伯父が移されたのは、翌の午を過ぎた頃だった。
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静脈瘤の破裂による量血は、なんとか内鏡術で止血されたものの、の過労と度の肺気腫、それに肝能のがなり、医師からは「危険な峠は越えたが、臓への負担が極めてきい。次に同じことが起きれば、もう体がもたない」と告げられた。
個のベッドに横たわる伯父は、昨で会ったよりも、さらに回りさく縮んで見えた。 には酸素のチューブが通され、点滴の管が何本も痩せ細った腕に刺さっている。 規則に鳴る図の子音だけが、い部を満たしていた。
「健兄ちゃん、美咲ちゃん。し、売でみ物でも買ってきて」
私が言うと、兄と姉は躊躇うようにち止まった。 の目は昨夜から泣き腫らして赤く、顔は気だった。
「千鶴……お、で丈夫か」
「うん。しだけ、おじさんとで話したいの」
兄は何かを言いかけ、それから袋をすようにして自分の両をじっと見つめた。 昨夜からずっと、兄は自分の無力さに打ちのめされていた。伯父の犠牲のにって、何自由なく昇し、庭を持とうとしていた自分ののさに耐えかねているようだった。
「……分かった。何かあったら、すぐ呼べよ」
兄は美咲の肩を抱き、静かに病をてった。 スライド式の扉がカチリと閉まり、部には私と伯父のだけが残された。
私はパイプ子を引き寄せ、ベッドの脇に腰をろした。