"8年前の罠と、氷点下の泥まみれ" 第2話
田署は申し訳なさそうに指を折りながら答えた。
「気事士がに、壁職が……。それと、あと……」
署はそこで言葉をぴたりと止めた。
「そして、なんだ?」
「……雑用係のおばさんが、だけおります」
健の眉が、さらに嫌にねがった。
「資材を運ぶような雑用か?」
「はい。いレンガやセメント袋のようなものを、背負子(しょいこ)でひたすらの階へ運ぶ仕事です……。この極寒ので、あんな過酷な仕事をするがまだいるものかと、私どもも驚いております」
田署はしたような、あるいは呆れたような顔をした。
「根性だけはすさまじい奴です。『鈴』という名字で呼んでおりますが……まあ、悪党ではありません。の若い男の作業員たちが全員音をげて逃げしていったというのに、あのおばさんだけはで居残り、黙々と仕事を続けているのです」
健は乾いた笑いを漏らした。
「そんな奇特なもいるものだな」
「まったくです。私も最初は『どうせかで音をげて逃げすだろう』とをくくっていたのですが……気がつけば、もうヶもの、も休むことなく通い続けているのです」
健の胸の内に、かすかな興のが散った。この殺な寒さので、屈な男たちすら次々と逃げしているというのに、の女が頑なに残り、たったでい資材を運び続けている――。
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体どんななのか、健は無性に気になり始めた。
「その女は、今どこにいる?」
「あの方なら……今ちょうど階のあたりでレンガを背負っていているはずです」
健はく頷いた。
「よし、ってみよう」
田署は目を丸くして構えた。
「えっ……? 会が、ご自分ので直接かれるのですか?」
「現の点検にわざわざ来たのだから、自分の目で隅々まで見て回らなければがないだろう」
健は先にって歩きした。田署は慌ててその背を必に追いかけた。
(収束:階の寒々としたロビーから、はえ切ったコンクリートの階段へとを踏み入れた。/过渡:層マンションの建設現特の、吹き抜けるが唸る階段を、会である健が自らっていく。)
エレベーターはまだ設置作業の途であり、稼働していなかった。そのため、の悪い階段を歩歩自力でがらなければならなかった。
健は無言のまま、黙々と階段を登っていった。
階、階、階……階層をがるにつれて、から吹き付けるはさらに激しさを増していき、肌を刺すようなたさがまった。窓枠やバルコニーのサッシがまだ完全に嵌め込まれていないため、の気が内の通へとそのままダイレクトに流れ込んできていた。級なコートを何に着込んでも、そのたさを完全に防ぐことは能だった。
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階ほどまでがったところで、健はわず息を乱し始めた。健は代初めではあったが、頃から健康管理と運を欠かさず、体力にはそれなりの自信があった。それなのに、この異常な寒さのでい階段をひたすら登り続けるのは、像以に過酷な肉体労働だった。
(この極寒の寒さので、さらにいレンガを背負って運ぶだと……?)
健は首を横に振った。常軌を逸しているとしかえなかった。
階に差し掛かった、方の暗がりから、何かが々しく階段をりてくる音が聞こえてきた。
――ドスン、ドスン、ドスン。
それは、聞いているだけで背筋が寒くなるような、あまりにも苦しい音だった。健はわずを止め、階段の片隅へとを寄せた。そして、息を殺してを見げた。
その瞬、健は自分の目を疑い、わず見いた。
の「女」が、その階段をりてきていた。
柄で華奢な体格の女だった。彼女の背には、自分の体ほどもある巨な製の背負子がしっかりと括り付けられていた。その背負子のには、無数のレンガが崩れ落ちそうなほどのように積みげられていた。数えてみれば、個は優に超えているように見えた。
女は痛みに耐えるように腰をきく折り曲げ、全体をに預けたまま、段段、まるでうようにゆっくりと慎に階段をりてきていた。