"8年前の罠と、氷点下の泥まみれ" 第8話
その差しは氷のようにたかったが、その奥底には何とも言い表せない複雑なの濁りが渦巻いていた。
健は彼女のからへと、ゆっくりと線をわせた。
だらけですり切れた作業。セメントのでく汚れた軍。すっかり骨と皮だけになったようにこけた頬。痛々しくひび割れた唇。
そして、彼女がろに隠そうとしている、あまりにも粗末で惨めなえた弁当。
健の表が、見るに堪えないほど歪んだ。
「なんだ、これは……」
それは、く、凍てつくような声だった。
「昼飯が、そんなものなのか……」
みさきは答えようとせず、ただうなだれて線をに落とした。
健はさらに歩、彼女へと距を詰めた。
「答えろ。昼飯がこれなのかと聞いてるんだ」
「……はい」
みさきは消え入りそうなさな声で答えた。
健はでたく笑った。
「財閥会の妻だった女が、よりにもよってこんな底辺の所で、こんなドッグフードのようなものをっているのか……!」
みさきはその言葉に体をビクリと震わせた。
「……元、です」
「ああ、そうだな。元妻だな」
健の声が、さらに鋭い刃物のような尖りを見せた。
「おが自ら浮気をして、勝に元妻になったんだろうが」
みさきはゆっくりと顔をげた。その瞳が、痛に激しく揺れていた。何かを必に訴えかけようとして、しかしすぐに唇を噛みしめてを閉ざした。
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そして、再びうなだれてをくげた。
「……そうってくだされば、それで結構です」
「なんだと……?」
健の眉が、そうに激しく逆った。
「言い訳はしないのか?」
「……今さら、言い訳をして体何になるというのですか」
みさきの声には、もう反論するだけの気力すら残っていなかった。
「だって、私の言葉をあなたは信じてくれなかったでしょう……。今さら、私が何を言ったところで、あなたが信じてくれるわけないでしょう……」
健は、その言葉にわず喉を詰まらせ、言葉に詰まった。
佐藤みさきの言う通りだった。
、彼女はあの、泣きながらこう言ったのだ。
『誤解です……私には何もありません……!』
しかし、当の健は彼女の言葉を切信じなかった。母が見せた写真、探偵事務所が撮したかぬ証拠の写真――佐藤みさきが見らぬ男と親しげにホテルからてくる決定な写真。そのビジュアルがあまりにも烈だったからだ。
「おがいくら言い訳を並べてようとも、そんなものは無駄だ! 写真があるじゃないか……! おがその男とホテルから連れっててくる決定な写真がな!」
それが、に藤健が彼女の顔面に叩きつけた号だった。
佐藤みさきは、あのも今と同じように、気力を失ったように力なくを垂れていた。
『……あなたが信じたいように、信じてください』
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そして、彼女は慰謝料を銭たりとも受け取ることなく、つですべてを捨ててそのからっていった。
当の健は、それが「当然の報い」だとい込んでいた。悪いのは彼女なのだから、倫というな裏切りを犯したのだから、文無しで追いされて当然だとの底から信じ切っていた。
――ところが、今だ。
あれから丸が過ぎた今、その同じ女が、自分の会社の建設現で命がけでレンガを背負って運んでいた。氷点度を超える極寒ので、男たちすら音をげて逃げすような過酷な環境で、え切った米とキムチの切れ端をかじりながら昼を済ませている。
その現実を目の当たりにし、健の胸の奥は、どうしようもなく苦しく、く締め付けられた。
何か途方もなく巨な狂いがじている――そんな気がしてならなかった。
しかし、自分のプライドが、それを認めることを頑なに拒絶していた。
(あの男に……捨てられたから、こうなったんじゃないのか……?)
健は奥歯をく噛みしめた。
(だから、こんな惨めなざまに落ちぶれたんだろうが……!)
佐藤みさきは切の言い訳をにせず、ただ黙って持っていた弁当箱の蓋をカチリと閉じた。
「……昼休みは、もう終わりです。仕事に戻らなければ……」
みさきは健の巨体を避けるようにして、そのを通り過ぎようとした。
健は咄嗟に、彼女の細い腕を再び掴み取った。