"8年前の罠と、氷点下の泥まみれ" 第17話
ご兄弟も姉妹もおらず、頼るべき親戚の姿も周囲には切ありませんでした」
本のい声が、広な会にく響いた。
「妊娠された体のままで、のさな堂の皿洗いを始められたそうです……。皿洗い、配膳、トイレ掃除……自分にできる仕事は何でも選ばずやられたそうです」
藤健の指先が、ガタガタと激しく痙攣した。分い類を握りしめるに、耐えきれないほどの力が込もった。
「子供をお産みになられたも、状況は切変わりませんでした。昼は堂、夜はコンビニの夜アルバイト……箇所、箇所を掛け持ちして寝るも惜しんで働き、必にお子様を育てげられました」
健は両目を固くく閉じ、そのでい絶望に呑み込まれた。
彼の脳裏に、これまでので度も像したことのなかった恐ろしい景が、次々とリアルに描きされていった。
――きくなっていくお腹を抱えながら、たいで何百枚もの皿を必に洗い続ける佐藤みさき。 ――まれたばかりの赤ん坊を背におんぶしたまま、コンビニのレジ打ちでをげ続ける佐藤みさき。 ――眠を完全に削り、過酷な肉体労働を掛け持ちしてが子のミルク代を稼ぎす佐藤みさき。
「……そして、ほど……」
本が、さらに言葉を続けた。
「お子様が、あるい病気にかかられました」
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「……病気だと……?」
「『急性血病』でございます」
藤健のカット見かれた両目が、信じられないものを見るようにを凝した。
「血病……だと……?」
「はい……血液の刻な悪性腫瘍でございます。治療には数千万円単位の爆発な費用がかかります」
本は、ファイルの最のページを音をててめくった。
「これまでに優太君の治療にかかった実費が、約千万でございます。そして、今さらに必とされる追加の治療費は、最でも千万円以をりません」
健は、喉の奥から声にならないうめき声を漏らした。
(千万……! の堂の皿洗いやコンビニのアルバイトだけで、どうやって千万円もの途方もないを集められるというんだ……! そんなこと、には絶対に能なことだ……!)
「だからこそ……あの事現へとを投じられたのです」
本は、静かに真実を告げた。
「肉体労働は、普通の当よりもはるかに額です。のアルバイトと比べれば、倍以のスピードで稼ぐことができますから……」
健は、事現の暗い通で目撃した佐藤みさきの姿を鮮にいした。
巨な製の背負子に無数のレンガを積みげ、凍てつくコンクリートの階段を歩歩命がけで登りりしていたあのさな背。セメントのに全まみれ、あかぎれでひび割れ、血を流していたあの荒れ果てた。
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そのすべての過酷な苦しみが――すべては、自分の実の息子である優太をかすためだった。が子の命を繋ぎ止めるための治療費を、銭でもく稼ぎすためだけだったのだ。
ポタリ……。
藤健の目から、粒のい涙が音もなくこぼれ落ち、元の分い類のにポツリと落ちた。
自分でもらぬにあふれしていた、で最もい涙だった。
「……会……」
本が、配そうに慎に声をかけた。
健は袖で自分の目を乱暴に拭い、血った目でを見げた。
「……あの男は……」
「……はっ?」
「みさきが浮気をしたと言っていた、あの男だ……。あの男は、今どこにいる……?」
本の表が、さらにく険しく固まった。
「それにつきましても、徹底に調査いたしました」
「なんと報告されている……!」
本はわずかにためらうような素振りを見せたが、を決してゆっくりとをいた。
「会……そのような男は、最初からどこにもしませんでした」
「……なっ……!?」
健の目が、再び限界まできく見かれた。
「佐藤みさき様が、の男と倫関係にあったという客観な証拠や事実が……切見つかりませんでした。むしろ……」
本は、言葉をここで度ぴたりと止めた。
「むしろ、なんだ……!」
「……むしろ、にご用されたあの『決定な写真』そのものが……完璧に『捏造されたもの』であった能性が極めて濃でございます」
藤健のから、分い調査ファイルがポロリと滑り落ちた。