"地味な契約社員の妻が消えた日" 第4話
だが、彼はそのことをらなかった。なぜなら、それらの類を彼のデスクへと涼しい顔をして届けていたのは、常にあの麗奈だったからだ。
麗奈がハガグループへ入社してきたのは、私とほぼ同じ期のことだった。彼女は社秘として華々しく配置され、私は経理部の底辺にいた。同じ会社にいながらにして、私たちを取り巻く景は最初からまったく異なっていた。
麗奈は、誰もが振り返るほどの美貌の持ち主だった。仕事の処理能力もく、の懐に入り込むのが恐ろしいほどにうまかった。入社してわずか半で、彼女はハガ・ハスの「腕」と呼ばれるようになり、1が経つ頃には、社内の誰もが「彼女こそがハガ社の本当の本命だ」と噂するようになっていた。
私はその噂の数々をにしても、の底からどうでもよかった。私は彼の法律の妻であって、決して彼の恋やではないからだ。
それでも、ので1度だけ、魂の芯までえ切ってしまうような夜があった。 それは曜の夜、私が青のマンションのたいので、激しい腹痛と嘔吐を伴う急性胃腸炎に襲われただった。にいつくばり、や汗を流しながら、私はすがるようないでハガ・ハスに話をかけた。
何度目かのコール音の末、ようやく話が繋がった。
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しかし、受話器の向こうから聞こえてきたのは、ハガの声ではなく、麗奈の澄んだ声だった。
「森川さん、申し訳ありません。ハガ社は現、極めてなオンライン会議の真っ最でして……」
受話器の向こうの背景から、ハガのく徹な英語のディスカッションの声がかすかに漏れ聞こえていた。私は痛みでまともに言葉を発することができず、ただ荒い息を喉の奥で詰まらせていた。
すると、がほんの瞬だけ、本当に配そうな声を絞りした。 「あの……体調が悪いのですか? 社に代わりましょうか……?」
その直、話の向こうから、ハガ・ハスのえ切った声が割り込んできた。 「誰だ? そんなにくだらない話なら、さっさと切れ」
が申し訳なさそうに答える。 「経理部の森川さんです。どうも体調がすこぶる悪いみたいで……」
そして、彼の酷な言葉が私のを突き刺した。 「……ぬわけじゃないなら、仕事の邪魔をするな」
通話は、プツリと無慈に切断された。 私はえ切ったフローリングのので自力で救急を呼び、病院へと搬送された。
病院のベッドので点滴のたい液体が腕に流れ込んでいる最、麗奈からメッセージアプリを通じて1枚の写真が送られてきた。 それは、ハガ・ハスがデスクに座り、がそのすぐ隣にぴったりと寄り添うようにしてパソコンの画面を指さしている姿だった。
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の物理な距は異常にく、まるで連い添った熟練の相棒のようだった。
添えられた文章は、悪すらじさせないほど滑らかだった。 『さっきはごめんなさいね。ドイツ案件が本当に事で、社もに余裕がなかったんです。気にしないでくださいね、お事に』
私は、声にして笑った。 そして、こう返信した。 『お仕事、お怪のないように頑張ってください』
その瞬から、私は彼女をブロックした。そして、麗奈に対しても、夫であるハガ・ハスに対しても、のとしての期待を1ミリたりとも抱くことをやめた。
は、私に対してあからさまにくの雑務や面倒な仕事を押し付けるようになった。 「今すぐこのドイツ語の専資料を訳してちょうだい」と、定業の5分に机に投げ捨てる。翌朝になれば、私が徹夜で作った度なリスク分析のレポートを、自分の名だけをきく記してハガ・ハスへと提する。
私は、そのすべてに対して切反論せず、黙っていた。 ただし、彼女が私を都よく利用したという「すべての客観な証拠」を、私は執く残し続けた。 送信、メールのやり取りのログ、ファイルの修正履歴。からの無茶な依頼文、私が納品したオリジナルの面、そして彼女が私の署名を綺麗に消しって提した「最終版」
のデータ。