"母は死んだと書いた娘" 第10話
私は葵を背に庇いながら、叫んだ。 「これ以、あの子を追い詰めないで! あなたがやってることは教育でも何でもない、ただの暴力よ!」
「何だと……? お、誰の方をしてるんだ! おのために言ってやってるんだぞ!」
「私のために、あの子の切なものを奪わないで!!」
私の叫び声に、リビングがを打ったように静まり返った。 康平は荒い息を吐きながら、信じられないものを見るような目で私を見ろしていた。 やがて彼は、吐き気を催すような侮蔑の笑みを唇に浮かべた。
「……あっそ。勝にしろよ。どいつもこいつも、俺の気もらないで」
康平は自分の着をひったくると、ドカドカと玄関へ向かった。 「今夜は帰らないからな。やしとけ!」 玄関のドアが、全体を揺らすほどの音をてて叩きつけられた。
が急発していくエンジンの音が、夜のにざかっていく。
静寂が戻ったリビングで、私は肩で息をしながら、ゆっくりと振り返った。 には、黒いゴミ袋を胸に抱きしめたまま、さく丸まって震えている葵の姿があった。
「葵……丈夫?」
私がを伸ばそうとした瞬、葵は怯えたようにを引いた。 その目には、康平に向けられていたものと同じ、い拒絶のが浮かんでいた。
「……触らないで」
「葵、怪はなかった? お父さんはてったから、もう丈夫よ」
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「朋代さんも、同じ」 葵は掠れた声で言った。涙とでぐしゃぐしゃになった顔を、ゴミ袋に埋めるようにして。 「かばったフリして……そうやって、いいのポジションを取るんだよね。お父さんより私を理解してるフリして、じわじわ私の母親の席に座るつもりなんでしょ。……私、絶対に認めないから。お母さんは、志保さんだけだから」
葵はよろめきながらちがった。 ゴミ袋を引きずり、落ちていたカバンを拾いげると、に階段を駆けがっていった。 階から、ドアがバタンと閉まり、鍵がかけられる音が響いた。
私は、崩れ落ちるようにリビングのに膝をついた。 散らばった参考。破れたノートの切れ端。 自分の無力さに、胸の奥が張り裂けそうだった。 何を言っても届かない。 庇っても、優しくしても、すべてが「母親の座を奪うための計算」として受け取られてしまう。 というは、私と葵のに、信頼などミリも築けていなかったのか。
い沈黙の、私は散らばったノートを枚ずつ拾い集め始めた。 破れたページをテープで留め、表の埃を払う。 親のエゴで勉の具まで壊される歳の女の痛みをうと、涙が溢れて止まらなかった。
机のの惨状を片付けるため、私は予備の鍵を使い、葵がいない隙を見計らって……いや、葵の部のの廊に散らばっていたプリントを拾い集めていた。
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その、葵の部のドアの隙から、微かな寝息……あるいは、泣き疲れて眠ってしまったような気配が漂ってきた。
ドアノブにそっとをかけると、鍵はかかっていなかった。 康平に壊されたのか、あるいは葵が閉め忘れたのか。
私は迷った。入るべきではない。プライバシーを侵害してはならない。 けれど、部の面に教科が散らばっているのが、隙から見えていた。このままではの踏みもない。 私は息を潜め、音をてずにドアを押しけた。
葵はベッドので、制を着たまま、黒いゴミ袋を抱きしめるようにして眠りこけていた。 規則正しい寝息が聞こえる。泣き腫らした瞼が痛々しく赤く腫れがっていた。
私は音をてないよう細の注を払いながら、に散乱した本やを拾い集めた。 デスクの、ベッドの元へと線を落とした―― ベッドの奥、壁とのわずかな隙に、自然に押し込まれていた角いが目に留まった。
埃をかぶった、古いクッキーの空き缶だった。
康平の目から逃れるように、番奥の暗がりに隠されていたその缶。 底面を引きすと、缶の角が擦れて錆びついていた。 い、何度も何度も、誰のにも触れられないよう隠し続けられてきた気配が、その古びた属からちっていた。
けてはならない。
それは、葵の絶対な聖域のはずだった。 けれど、私の指先は、磁に吸い寄せられるようにその缶の蓋にかかっていた。