"母は死んだと書いた娘" 第20話
私の声は、く、けれど刃のように鋭く康平の胸を抉った。 「志保さんがくなる、あなたが何をしていたか……静岡のお母様から全部伺ったわ。志保さんが病で苦しんでいる横で、あなたは保険の続きやの活の話ばかりしていたそうね。自分がしみと向きうのが面倒だから、んでいく妻の恐怖を直するのが耐えられないから、さっさと過にして片付けようとした」
康平の瞳が、激しく揺して揺れた。 「な……何を馬鹿なことを……あそこのババア、余計なことを……」
「志保さんはね、あなたが怖かったのよ」 私は畳み掛けた。 「自分がんだら、あっというに別の誰かで塗り潰されて、そのものがなかったことにされるのが怖くてたまらなかった。だから、歳だった葵に『忘れないで』『のをお母さんと呼ばないで』と、縋るように遺言を残したの。……あの子を、暗のに縛り付けたのは、病気で正気を失いかけていた志保さんじゃない。志保さんをそこまで追い詰めた、あなたの酷さと勝さよ!」
「違う! 俺は……俺はただ、普通の族になりたかっただけだ!」 康平は狂ったように叫び、を抱えた。 「男つで子供を育てるのがどれだけ変か、おに分かるか!? 会社でも『奥さんをくして変だね』と同され、再婚したらしたで『妻とうまくいってるのか』と探られ……俺はただ、どこにしても恥ずかしくない、普通の庭の父親になりたかっただけなんだよ!」
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その言葉が落ちた瞬、リビングはを打ったように静まり返った。
普通の庭。 どこにしても恥ずかしくない父親。
結局のところ、すべては康平自の見栄と恐怖だったのだ。 妻をくしたれな男として見られることへの恐怖。 再婚庭として世から好奇の目で見られることへの怯え。 その脆なプライドを守るための防波堤として、葵と私が利用されていただけだった。
「お父さん」
沈黙を破ったのは、葵の静かな声だった。
葵は歩、また歩と康平のに歩み寄った。 その顔には、かつて父親に向けていた怯えも、りもなかった。 そこにあったのは、れなものを見つめるような、な諦だった。
「私ね、お父さんのことがずっと議だった」 葵の言葉が、静かな部に淡々と落ちていく。 「どうしてお母さんがんだ、お母さんの写真を全部アルバムの奥に隠したの? どうしてお母さんの好きだった曲を、ので流しちゃいけなかったの? どうして朋代さんが来てから、私ので度もお母さんの話をしてくれなかったの?」
康平は顔をげられないまま、肩を震わせていた。
「お父さんは、お母さんを忘れたかったんだよね。お母さんがんだっていうしい事実を、自分のの汚点みたいにって、く消したかったんだよね」
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「葵、それは……」
「朋代さんはね」 葵は振り返り、私の方にを伸ばした。 その指先が、私のコートの袖を、ぎゅっと掴んだ。 確かな温もりが、布を通して伝わってくる。
「朋代さんは、お母さんのいを捨てろなんて度も言わなかった。私の引きしの奥にあるお母さんの写真を、勝に捨てたりしなかった。私の作った壁の向こうで、ずっと私がお母さんを好きでいることを、許してくれてた」
葵の瞳から、粒の涙が零れ落ちた。 けれど、その声はどこまでも力かった。
「お父さんの言う『普通の族』なんて、いらない。そんなもののために、お母さんを消したくない。……朋代さんは、お父さんの見栄を飾るための具じゃない。そして私も、お父さんが『派な父親』でいるための具じゃないの」
康平は言葉を失い、喉をヒュウヒュウと鳴らしたまま、ソファに崩れ落ちた。 反論の言葉など、どこにも残っていなかった。 歳の娘に、自分の最も浅ましい本性を完全に暴かれ、言語化されたのだ。 としての威厳も、父親としての正論も、すべて元からガラガラと崩壊していた。
私は葵の横にち、テーブルのの真っな『養子縁組届』をに取った。 そして、康平の目ので、それをゆっくりとつに折り畳んだ。
「康平さん。この類は、役所にはしません。今、度と葵に養子縁組をしないと約束してください」