"義母の合鍵が入らない" 第6話
私はそのポーチを取りし、仕事用のトートバッグの底くに沈めました。
「……終わったんだわ」
声にして呟いた瞬、胸の奥にあったたい鉛のような塊が、すっと消えていくのをじました。 私が守ろうとしていたものは、最初からここにはなかったのです。
午。 激しい音が窓を叩く、玄関のドアが乱暴にく音がしました。
「由! お、体何をやったんだ!」
健でした。 傘もろくに畳まず、靴を脱ぎ散らかしてリビングにび込んできました。 彼の顔は、りと焦燥で歪んでいました。 義母から、どれほど歪められた話を受けたのか、容易に像がつきました。
「母さんが泣きながら話してきたぞ! 友達のでおにお呼ばわりされて、追いされたって! 警察を呼ぶとか言ったらしいじゃないか! 正気かよ!?」
健は濡れたで私の肩を掴もうとしました。 私は歩、ろへがり、そのを静かにかわしました。
健のが、空を切りました。 彼は私のえ切った目を見て、瞬だけ怯んだようにきを止めました。
「……健さん。私の机を見て」
私は、リビングの央に置かれた、滴の跡が残るウォールナットの机を指差しました。
「お義母さんが、これをベランダののに放りしたの。私の切な机を。そして、私の個なカップを割ったわ」
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健は机に線を落としました。 まだ湿ってが変わっている板を見て、彼の喉仏がごくりときました。 けれど、次の瞬に彼のからたのは、私の像を寸分も違わない、あまりにも惨めな言葉でした。
「そ、それは……母さんもやりすぎたかもしれないけどさ! でも、机だろ!? また拭けば使えるじゃないか! 母さんは俺のために飾り棚を置いてくれようとしたんだ! 悪気があってやったんじゃないんだよ! どうしてそんなさなことで、母さんの友達のであそこまで恥をかかせるんだよ!」
「さなこと?」
「そうだよ! 机の位置なんて、で俺が戻せば済む話だろ!? おがしだけして、笑って『いらっしゃい』って言えば、誰も傷つかずに済んだんだ! おが固になってプライドを振りかざすから、母さんは傷ついて寝込んじまったんだぞ! しは反省しろよ!」
健は唾をばしながら、私を鳴りつけました。 その顔を、私はじっと見つめていました。
このは、に濡れた机を見ても、何もじないのだ。 この机が、私にとってどんなを持っていたのか、緒に暮らしていても、何つ理解していなかったのだ。 彼の世界には、「母の嫌」と「自分の保」しかせず、そのために妻の尊厳がに浸かろうと、乾かせば元通りになると本気でっている。
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「……わかったわ」
私はく答えました。
「え?」
健は拍子抜けしたように、を半きにしました。 もっと激しい言い争いになるとっていたのでしょう。 私のあまりにも平坦な声に、彼のりの勢いが削がれたようでした。
「わかってくれたのか? ……だったら、、母さんに謝りの話を入れてくれよ。『昨は虫の居所が悪くてすみませんでした』ってさ。言謝れば、母さんだって許してくれるから」
健の表に、堵のが広がっていきました。 またいつものように、妻が折れて、庭の平が保たれた。 そう確信したのでしょう。彼は私の濡れたスーツにすら気づかず、「腹減ったな、何かべるものある?」とキッチンへ向かいました。
私は彼の背を見つめながら、ので静かに告げました。
――いいえ、健さん。 私が「わかった」と言ったのは、あなたがもう度と、私の夫にはなれないだと理解した、ということよ。
それからのヶ、私は度も義母の話題をにしませんでした。 義母への謝罪の話もしませんでしたが、健が適当に「由も反省してるから」と母親に伝えたらしく、義母から直接文句を言ってくることもありませんでした。
健は、がに平穏が戻ったと信じ切っていました。 私が毎、定に朝を作り、彼のワイシャツをクリーニングにし、夜には温かい事を用していたからです。
彼は私が「しくなった」「母親のを受け入れた」とい込み、嫌よく過ごしていました。