"義母の合鍵が入らない" 第7話
けれど、彼は気づいていませんでした。 私がそのヶ、度も彼と目をわせて笑わなかったことに。 彼が話しかけてくる言葉に、「ええ」「そうね」という最限の相槌しか返さなくなっていたことに。
そして、私が会社の昼休みに、産を回り、着々とある準備をめていたことに。
の終わりの、よくれた曜の朝。
健が勤した、私はあらかじめ配していた鍵の専業者を自宅に招き入れました。 作業員のによって、に健と選んだ真鍮のシリンダーが、ドライバー本で無質に取りされていきました。
空いた穴に嵌め込まれたのは、真しい、艶消しの黒いスマートロックでした。 暗証番号と、指紋認証だけで閉する、物理な鍵穴を完全に塞いだ最の子錠。
「奥様、これで作業は完です。しい暗証番号を設定してください」
「ありがとうございます」
私は作業員を見送り、しくなったたい防盗ドアをから閉めました。 カチャリ、ウィーンという静かな子音が響き、オートロックが作しました。
私の元には、もうあの真鍮の鍵はありません。 そしてもちろん、義母がハンドバッグの奥底に切にしまい込んでいるはずの鍵も、ただの無価値な属の棒に変わりました。
そのの午。 私は会社のデスクで、パソコンの画面に向かっていました。
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元のスマートフォンが、けたたましく震え始めました。 画面を見ると、ディスプレイには『義母』の文字が、り狂ったように点滅していました。
私は通話ボタンを押さず、スマートフォンをデスクのに伏せました。 度切れた着信は、髪をいれずに度、度と繰り返されました。 義母が今、あのマンションの玄関で、どれほど激しくドアノブをガチャガチャと揺らし、顔を真っ赤にして叫んでいるか、に取るように分かりました。
やがて、着信は止まりました。 義母が次に誰に話をかけるか、私には完全に分かっていました。
同じ刻。 都のオフィスにある商社のオフィスで、健のスマートフォンが激しく振していました。
ディスプレイに表示された『母さん』の名を見て、健はわずかに眉をひそめました。 会議ののい休憩。彼は湯の奥、非常階段へと続くい鉄の扉を押しけ、通話ボタンをスワイプしました。
「もしもし、母さん? どうしたの、仕事なんだけど――」
健が言葉を言い終わるに、受話器の向こうから鼓膜を破らんばかりの切り声がび込んできました。
『健! 健、どういうことなのよこれ!』
階段のコンクリートの壁に、母親の甲い絶叫が反響しました。
『鍵が入らないのよ! 私が持ってる鍵が、穴に入らないの! っていうか、鍵穴そのものがないのよ! 黒い変な械がくっついてて、ドアがかないの! あの女、何をしたの!? 私を締めす気!?』
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健は息を呑みました。 階段のひんやりとした空気が、急速に彼の肺を満たしていきました。
「え……? 鍵が、かない……?」
『そうよ! せっかくデパでいいお肉を買って、すき焼きでも作ってあげようとって来てみたら、これよ! からチェーンがかかってるとかじゃないの、鍵自体が変えられてるのよ! あんた、何も聞いてないの!? あの気なお嫁さんが、勝にやったんでしょう!? 今すぐ帰ってきなさい! 警察を呼ぶわよ!』
受話器の向こうで、母親がヒステリックに玄関のドアをドンドンと叩く音が響いていました。 健の脳裏に、ヶのあの夜の景が、鮮烈に蘇りました。
で濡れそぼり、が変わっていた、由のウォールナットの机。 そして、その机の横で、の切消え失せた瞳で自分を見つめていた、妻のたいち姿。
あの夜、由は取り乱さなかった。 泣き叫びもしなかった。 ただ静かに、「わかったわ」と言った。
健は、全の血がの先から引いていくような覚に襲われました。 彼が「妻が折れて解決した」とい込んでいたこのヶ、由がので何を育てていたのか。 その正体が、巨な氷塊となって、彼のから突き刺さったようでした。
「おい、健! 聞いてるの!? く会社を退して戻ってきなさい! あの女に話して、今すぐここをけさせなさいよ!」