"義母の合鍵が入らない" 第14話
「健さん。あなたが、お義母さんの嫌を取るために差ししてきたのは、あなた自のプライドだけじゃないのよ。このは、私の尊厳がそのいけにえだった。でもね、私はあなたの代わり蔵じゃないの」
私は歩、彼の方へづきました。 逃げを塞ぐように、ソファを見ろしました。
「これは、あなたとお母さんのの問題よ。あなたが、母親の過干渉から逃げ回り、境界線を引くことを怠ってきたツケが、いま気に回ってきただけ。私を盾にして切り抜けようとしないで。自分で背負いなさい」
「自分で……背負う……?」
健は掠れた声で呟き、両で顔を覆いました。 指のから、けない嗚咽が漏れていました。
「怖いんだよ……親戚から親孝者って言われて、母さんに泣かれて……俺、どうしたらいいか分からないんだよ……」
その姿を見ても、私の胸には同の欠片も湧きがりませんでした。 彼が今わっている恐怖など、私がのに濡れそぼる机を見たの絶望に比べれば、あまりにも軽すぎたからです。
「怖ければ、逃げればいいわ。番号を教えて、お母さんに泣きついて、私の机があった所にまた仏壇を置いて、で仲良く暮らせばいい。その代わり、この部に私はもういない。どちらを選ぶかは、あなた次第よ」
私はそう言い残すと、キッチンへ向かいました。
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やかんにを張り、コンロにをつけました。 青い炎が静かに揺れるのを見つめながら、私は分のほうじ茶を淹れました。
テーブルので、健のスマートフォンはなおも振を繰り返していました。 けれど私は、度もその画面を見ませんでした。 戦うべきが戦わなければ、何も始まらない。 私はただ、自分の境界線の内側にち、彼が男として自分のでつのか、それとも母親の胎内へと永に引きこもるのかを、徹に見届けることだけを決めていました。
翌朝、の曜。
目覚まし計の音で目を覚ました、寝の隣のベッドはすでに空になっていました。 リビングへると、スーツを着た健が、ネクタイを歪めたままダイニングテーブルに座っていました。 目のには濃い隈が張り付き、テーブルのにはみかけのめたコーヒーと、液晶画面を伏せられたスマートフォンが置かれていました。
「……おはよう」
健が、消え入りそうな声で言いました。 私は「おはよう」とく返し、いつものように自分のトーストを焼き、サラダを準備しました。 健の分の朝は作りませんでした。 自分のことは自分で管理する。それが、同居を続けるための最限の境界線でした。
健は私を責めることもなく、ただ所なさげにちがり、自分のトーストをトースターに入れました。
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沈黙ので響く、パンが焼ける微かな匂い。 かつてなら、私が気を使って「丈夫? 眠れた?」と声をかけていたはずでした。 けれど、その役目を放棄した今、部のにはよいとすら言える乾いた緊張が漂っていました。
午、私たちは別々にをました。 オートロックの操作パネルので、健がぎこちなく暗証番号を打ち込む背を、私はろから見つめていました。 彼は番号を打ち終えた、振り返って私を見ました。 何かを言いたげにをきかけましたが、私のたい線をじ取ったのか、結局何も言わずにエレベーターに乗り込みました。
会社に着いてからの午、私のスマートフォンには何通かの通が入りました。 親族グループからのメッセージではありません。私は昨夜のうちに、義母と親戚同の連絡先をすべて着信拒否にし、グループチャットも無言で退会していたからです。
通の主は、私の母からでした。
『由、丈夫? さっき、健さんのお母さんからうちに話があったわよ。「お宅の娘さんはどういう躾をされてるんですか」って、ものすごい剣幕でね』
母のいメッセージを読んだ瞬、私の胃の奥がキュッと引き絞られました。 義母の触は、すでに私の実にまで伸びていたのです。 けれど、そのに続いた母の言葉に、私は胸を撫でろしました。