みかん小説
本棚

"義母の合鍵が入らない" 第18話

は、ドアノブからゆっくりとしました。 そして、振り返りました。

その顔を見て、叔母は息を呑んで退しました。 健の目は血り、唇は青ざめ、幽鬼のようなたいを宿していたからです。

「健……? あんた、どうしたの……?」

は叔母の問いには答えませんでした。 彼は病のドアをけることもしませんでした。 ただ、胸ポケットから財布を取りしました。

「健?」

は無言のまま、廊を歩きしました。 叔母の呼び止める声を完全に無し、エレベーターホールへと向かいました。

階の自精算に向かった健は、母親の診察券番号を打ち込み、本の救急搬送と検査にかかった費用、約千円を、自分のクレジットカードで括決済しました。 吐きされた領収を、械から乱暴に引き抜きました。

そして、ベンチに腰をろすと、震える指でスマートフォンを取りしました。

画面をき、親族のグループチャット『佐藤族会議』をげました。 そこには今も、叔父や叔母たちからの「母親を事にしろ」「親孝者」という罵詈雑言が連なっていました。

は、精算の領収の写真を撮し、チャットに貼り付けました。 そして、で、度も親族に向けたことのなかった、簡潔で徹な文章を打ち込みました。

広告

『本の救急搬送および検査費用は全額私が支払いました。医師の診断通り、臓に異常はなく、母の体に命の危はありません。今、母の過干渉や活について、親戚の皆様が由に連絡することは切お断りします。これ以、妻を巻き込むのであれば、私個として法な措置を検討します』

送信ボタンを押しました。

画面にメッセージが表示されたのを確認すると、健は迷うことなく、のメニューボタンをタップしました。

『グループを退会しますか?』

『退会する』

迷いは、ミリもありませんでした。 画面から親族のグループチャットが消えり、受信トレイには静寂が戻ってきました。

はスマートフォンをぎゅっと握りしめ、病院のいプラスチックベンチので、く、く、息を吐きしました。 肺のに溜まっていた分の澱が、黒い煙となって吐きされていくような覚でした。

がった健は、もう度だけ階を見げました。 病に戻る気は、微もありませんでした。

彼は病院の自ドアを抜け、夜の帳がり始めた初へと踏みしました。 向かうべき所は、つしかありませんでした。

夜の半。

私は、リビングのソファに座り、文庫本を読んでいました。 部かりは、元のフロアスタンドつだけに絞っていました。

広告

の隅には、あのつの段ボール箱が、静かに鎮座していました。

からは、あれ以来度も連絡がありませんでした。 母がにそうだと泣き叫んでいた男です。 今頃は母親の病で親戚たちに囲まれ、私の悪で盛りがり、鍵を差しす約束でもしているのだろう。 休暇を取って、へ本契約にこう。 そんなめた計算をの片隅で巡らせていたでした。

玄関のスマートロックから、ピピッ、という子音が聞こえました。

続いて、ウィーンという静かな駆音。 たい防犯ドアがき、ゆっくりと閉まる音がしました。

私は本を膝のに置き、リビングの引き戸を見つめました。

すりガラスの向こうに、ちました。 引き戸が、静かにきました。

っていたのは、健でした。 ネクタイはされ、シャツの第ボタンは引きちぎられたようにれていました。 には着も持たず、ビジネスバッグだけをそうにぶらげていました。 その顔はで、まるでい嵐のを何キロも歩いてきたかのように、激しく消耗していました。

私はがりませんでした。 ただ、静かに彼を見つめました。

「……おかえりなさい」

は私の声にさく肩を震わせ、力なくリビングにを踏み入れました。 彼は靴を脱ぐことも忘れ、ダイニングテーブルのに歩み寄りました。

そして、持っていたビジネスバッグのファスナーをけました。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: