"ゴミ箱の隣に座る学年一位" 第5話
私の声は、廊に響くほどくなっていました。 数歩先を歩いていた別のクラスの保護者が、怪訝そうにこちらを振り返りました。 松井先は困惑したように眉を寄せ、にしたプリントを胸元で抱え直しました。
「お母様、声を落としてください。ここでは……」 「落とせません! 週、ずっとしてきました。も何も言わない、先も教えてくれない。周りからは変な目で見られて、あの子の将来はどうなるんですか? あの机の主は誰なんですか!」
私の激しい追及から逃れられないと悟ったのか、松井先はく、いため息をつきました。 先の線が、教の奥で、静かに本を読んでいるの背へと向けられました。
そして、信じられないような言葉を、私の元に落としたのです。
「……あの机は、さんのおっしゃる通り、本来なら撤されるはずのものでした」 「え……?」 「学期が始まる、教務部で協議して、あの机と子は空き教へ運びす予定だったんです。期使われていませんでしたし、教のスペースを空けるためにも、それが学としての正規の続きでした」
松井先は言葉を切り、苦渋に満ちた表で私を見つめ返しました。
「それを……さんが、泣いて頼んできたんです」 「が……?」 「はい。『あの机を教からさないでください』と。
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もし机を置く所がないというなら、自分の席を番ろの端にして、その隣にあの机を置いてほしいと。そうすれば、誰の邪魔にもならないからと……彼女が、自分の委員のも、の席もすべて放す代わりに、あの机を残してくれと、私にをげたんです」
の奥で、キーンという鋭い属音が響いたような気がしました。
が? あの、プライドのいが? のためにをげて、自分の位も特等席も投げ打って、あんな埃をかぶった空っぽの机を守っている?
「……どうして」
私のから、掠れたような声が漏れました。
「どうして、あの子がそんなことをしなきゃいけないんですか? あの机は……体、誰の机なんですか?」
私の問いに、松井先はこれ以ないほどく、暗い沈黙を返しました。 教内から、カサリとページをめくる乾いた音が聞こえました。
はまだ、あの暗い特等席の対極にある所で、背筋を伸ばしたまま、で座っていました。 その隣にある、ぽっかりと空いたい机の板が、の午のをたく照り返していました。
参観を終えて帰宅した夜、私は台所にち尽くしたまま、え切った麦茶のグラスを握りしめていました。
の奥で、松井先のあの声が何度も、何度もリフレインしていました。
『さんが、泣いて頼んできたんです』 『自分の委員のも、の席もすべて放す代わりに、あの机を残してくれと……』
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嘘だ、といたかった。何かの違いであってほしかった。 あの子が、幼稚園の頃からどれだけのものを犠牲にしてあの「番」を維持してきたか。 友だちが放課に公園で遊んでいるも、休に族でテーマパークへかけるも、はいつもの部座席で参考をいていました。 「お母さん、私、次の実力テストでも番になるからね」 そう言って、健気に笑っていたあの子の顔が、まぶたの裏に焼き付いてれませんでした。
父親がいないからといって、世からろ指を指されたくない。 「母子庭だから学力が落ちた」なんて、絶対に言わせたくない。 そので、私はをにして働いてきました。パートのシフトを増やし、指先があかぎれでひび割れても、が受ける模試の費用とハイレベル特クラスの謝だけは度も滞納したことがありませんでした。
それなのに。 は、自分からその所を捨てたというのです。 名もらない誰かの、使われてもいない空っぽの机を守るために。
「お母さん、お夕飯、まだ?」
リビングの引き戸がき、部着に着替えたが入ってきました。 いつもの、波のたない声。参観で私が教のろにっていたことなど、まるで何事もなかったかのように振るっていました。
「……。ちょっとそこに座りなさい」
私は震えるで麦茶のグラスをテーブルに置き、娘の正面の子を引きました。