みかん小説
本棚

"ゴミ箱の隣に座る学年一位" 第9話

「あのバスのを追ってください。れて」

バスはを抜け、昭代に建てられた古い公団宅がち並ぶ域へと入っていきました。 壁のコンクリートが黒ずみ、所々の鉄柵が錆びついた、気な団群。 私たちの暮らすとは、らかに空気の異なる所でした。

は「公団団」という留所でバスをりました。 私はタクシーをり、植え込みのに隠れながら、娘のを追いました。

は迷いのない取りで、号棟とかれた階建ての棟へと入っていきました。 エレベーターのない、暗い階段の吹き抜け。 は階段をがるのではなく、階のポストが並ぶ集玄関のち止まりました。

私は柱のから息を潜めて見つめました。

はカバンをけ、からあらかじめ用されていたの茶封筒を取りしました。 そして、さらにビニール袋から、焼きたてのパン袋を取りしました。 甘いデニッシュパンの匂いが、に乗って微かに漂ってきました。 はそれらを丁寧にねると、「402」とかれた集ポストの投入へと、音をてないように慎に滑り込ませたのです。

ポストのがパタンと閉まりました。 はそのに数秒佇み、ポストのネームプレートをおしそうに見つめたさく息を吐いて振り返りました。

広告

私は慌てて植え込みの奥にを隠しました。 は私のに気づくこともなく、再びバスの方へと静かに歩きっていきました。

娘の音が完全に消えるのを待って、私はポストのへと歩み寄りました。

「402」のポスト。 あせたプラスチックのプレートには、きのマジックで、こうかれていました。

『佐伯』

違いありませんでした。 ここが、あの徒のでした。

は毎、こうしてここまで通っていたのか。 自分の勉を削り、こんな暗い団のポストに、ノートとパンを届けに来ていたのか。

胸の奥から、煮え滾るようなりが湧きがってきました。 に対するりではありません。 この部に引きこもり、娘の優しさと真面目さをい物にして、甘え切っているその「佐伯」という徒と、その親に対するりでした。

許せない。 私たちの活を、の輝かしい未来を、こんな児のために犠牲にされてたまるものか。

私は踵を返し、暗いコンクリートの階段を気に駆けがりました。 カン、カンと、私のヒールの音がたい踊りに鋭く響き渡りました。

階にがり、番奥の部。「402」のドアのちました。 塗装の剥げかけた、くすんだ緑の鉄扉。 私は躊躇することなく、インターホンのボタンをく押し込みました。

広告

ピンポーン、と古びたチャイムの音が、部の奥でけなく鳴り響きました。

何の反応もありませんでした。 私はもう度、今度は苛ちを込めてボタンを連打しました。

「佐伯さん! いらっしゃるんでしょう! けてください!」

ドアをのひらでく叩きました。 鉄のたい触が掌に痛みをらせましたが、止める気にはなりませんでした。

数分が過ぎた頃、ガチャリと、内側からドアチェーンがかけられる鈍い音がしました。 ドアが、わずかセンチほど、恐る恐るきました。

から覗いたのは、代半ばほどの、ひどく痩せこけた女性の顔でした。 髪が混じった髪をろで乱雑に束ね、目のには濃い隈が張り付いていました。 着古した毛玉だらけのカーディガンを胸元で掻きわせ、怯えたような瞳で私を見つめていました。

「……ど、どちら様でしょうか」

掠れた、蚊の鳴くような声でした。 私は名刺を取りす代わりに、名札のように毅然と言い放ちました。

の母です」

その瞬、女性の顔から、完全に血の毛が引きました。 見かれた瞳が刻みに震え、女性は息を呑んだまま、のように固まりました。

「あ……た、さんの……」 「お話しがあります。けていただけますか」

私の徹な声に、女性は慌ててドアを度閉め、チェーンをすガチャガチャという震える音をてました。

再びいたドアの向こうに、玄関の(たたき)が見えました。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: