"ゴミ箱の隣に座る学年一位" 第18話
用務員のが、空の机にをかけました。 ガタッ、と乾いたと鉄の摩擦音が、静まり返った教に響きました。
「あの……!」
の唇から、かすれた鳴のような声が漏れました。
「待って……待ってください……! まだ……まだじゃ……!」
「さん」
教がたい声で遮りました。
「もう分だ。本が登していない以、これ以待つことはできない。君の席も、このすぐに元の最列に戻す。君のお母様からも、くそう請されているんだ」
お母様からも。 その言葉が落ちた瞬、の顔から完全に表が消えりました。 絶望というより、底のない虚無がその瞳を覆い尽くしていきました。 あの子はゆっくりと首を垂れ、机に置いたをだらりと膝のに落としました。 すべてを諦めた、歳の女の、静かすぎる伏でした。
用務員が机を持ちげようと、腰を落としました。
「待ってください!」
鋭い声が、教の空気を切り裂きました。
徒たちが斉に振り返りました。 教が怪訝そうに眉をひそめ、が弾かれたように顔をげました。
教のろのドアからへを踏み入れたのは、私でした。
私の肩は激しくし、乱れた髪が額に張り付いていました。 パンプスを擦りながら、私は教のろの通を迷いなく突きみました。 徒たちの線が、針のように私に突き刺さるのをじました。
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『誰?』『ちゃんのお母さん?』という声の囁きがをかすめました。 かつての私なら、耐えられずに逃げしていたはずの線。 でも今は、そんなものが羽毛よりも軽くじられました。
「お母様?」
教が鏡を直し、呆れたような声をげました。
「どうされたのですか。机の撤は、昨あなたがでに求められたことですよ。今、その通りに……」
私は教の言葉を無し、用務員のにち塞がりました。 そして、持ちげられかけていた空の机の角を、両で、から力任せに押し戻しました。
ガタンッ!
い音がして、机の本の鉄脚が再びのビニールリノリウムに叩きつけられました。
「お母様、何をなさるんですか!」
教がをなして声を荒らげました。 用務員たちも困惑して顔を見わせています。
私は机の板を両でしっかりと押さえたまま、教を真っ直ぐに見据えました。 声が震えそうになるのを、奥歯を噛み締めて必に押し殺しました。
「まだ……ではありません」
「は?」
「約束は、午分です。今は、分。まだ、分あります」
教は信じられないものを見るような目で私を見ました。
「何を馬鹿なことをおっしゃっているんですか! あと分でその徒が来るわけがないでしょう! あなた自が、娘さんの学習環境を守るために今すぐ撤しろと……!」
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「私が違っていました!」
教に、私の叫びが響き渡りました。 徒たちが息を呑みました。 最列の徒も、窓際の徒も、全員が私を見ていました。 そして何より、私のすぐ隣で、が信じられないものを見るように、きく見かれた瞳で私を見げていました。
私はの線から逃げませんでした。 胸が千切れそうなほどの痛みを抱えながら、娘の瞳を真っ直ぐに見つめ返しました。
「私が……浅ましくて、愚かな母親だったからです」
私のから、絞りすような言葉がこぼれ落ちました。
「自分の見栄のために、娘を追いつめ、息もできない所に縛り付けていました。この席が、あの子にとってどれだけ切な所だったかもらずに、で踏みにじろうとしました。……教先、この机は、が自分の尊厳をかけて守ってきた机です。あと分、いえ、最の秒まで、絶対にかさせません」
「お母様、ここは学です! 保護者の個なで、学の規律を乱すことは許されません!」
教がりで顔を真っ赤にし、用務員に鳴りました。
「何をボサッとしている! くその机を運びしなさい!」
の用務員が、気まずそうに、しかし職務として再び机にを伸ばしてきました。 私は机のに覆いかぶさるようにして、両腕で板を抱え込みました。
「どきません!」
私は叫びました。
「かすなら、私を引きずり倒してからにしなさい!」
狂気の汰でした。 学の教の真んで、の母親が机にしがみついて叫んでいる。 これ以ないほど見苦しく、恥ずかしい姿でした。 でも、議と恐怖はありませんでした。 初めて、私は親として、正しい所にっているという確信だけがありました。
「やめなさい、お母様!」
教が私の腕を掴もうとを伸ばした、そのでした。
「教先、そこまでにしてください」
く、しかし凛とした声が、教のから響きました。
振り返ると、教卓のに、担任の松井先がっていました。 いつもは気そうに背を丸めている松井先が、両に分いバインダーを抱え、教を鋭く見据えていました。
「松井教諭……何の真似だ!」
松井先はゆっくりと歩みをめ、教と私とのにちました。 そして、抱えていたバインダーを、私が抱え込んでいる空の机のに、トンと音をてて置きました。
「これは、佐伯真優さんがこの半、自宅で解き続けた定期テストの過問題と、提課題のすべてです。昨、私が佐伯さんの自宅を訪問し、直接受け取って採点しました」
松井先の言葉に、教がざわりと揺れました。
「彼女は、学には来られませんでしたが、度も学ぶことを諦めていませんでした。
すべての教科で、級基準を回る点数を取っています。そして……」