"一度も抱かれなかった娘" 第9話
そんなこと、私は聞いていなかった。 あいつはあの夜、私が病をた、そんなことまでしていたのか。
『その、あなたが駆けつけて来られたのです』 望の言葉は容赦がなかった。 『あなたは奥様を罵倒し、に突っ伏す奥様の腕を掴んで引きずり起こそうとされました。見かねた夜勤の護師が止めに入ると、あなたは「妻は度の精神錯乱だ、子どもを殺す気だ、く警備員を呼べ」と声で叫ばれた。覚えていらっしゃいますね?』
「それは……あいつが錯乱していたからだ! 現に点滴を引き抜いて暴れていたんだろう!」
『暴れていたのではありません。が子に目会いたいと、泣いていただけです』 望は静かに、けれど決定な断罪をにした。 『警備員によって病に隔された奥様は、その、窓の鍵をけ、夜のたいがるを、裸のまま通用からてかれました。……相原様。本当に、奥様がご自分ので、子どもを捨てて逃げたとおいですか?』
「……黙れ」
『あなたがあの夜、あのをそこまで追い詰めたのではないのですか?』
「黙れ!!」
私は喫茶の内で、わず鳴り声をげていた。 周囲の客や員が斉に私の方を振り返る。 私は受話器をから引きし、乱暴に通話終のボタンを押した。
スマートフォンの画面が暗転する。 荒い息が止まらない。
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界がく霞み、テーブルののアイスコーヒーのグラスが刻みにカタカタと震えていた。私のが震えているせいだった。
嘘だ。 全部、あの助産師の偏見だ。 当の状況をりもしないくせに。 あの女が、どれだけ私のプライドを傷つけたか。 私の母親に対してどれだけ淡だったか。 庭を捨て、私を捨てて逃げようとしたのは、あいつの方だったのだ。
私は呼吸をえようと、え切ったコーヒーを気に煽った。 苦みだけが喉に残り、胸の焼けるような覚はしも治まらなかった。
そのの午、会社でパソコンに向かっていても、仕事はまったくにつかなかった。 画面の数字が、すべての類の文字に見えてくる。 「族よりい拒否あり」 「児は児にて隔管理を継続」 あの文字が、私の脳裏に焼き付いてれなかった。
午を過ぎた頃、私のデスクのスマートフォンが震えた。 画面を見ると、保育園の話番号が表示されていた。 臓がねがる。 私は慌てて席をち、オフィスの非常階段へ駆け込んだ。
「もしもし、相原です! 咲良に何かありましたか!?」 息を切らして問いかけると、話の相は担任の吉岡先だった。
『あ、相原さん、お仕事にお話してしまい申し訳ありません。咲良ちゃんのおとか、お怪ではないんです。
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ただ、し気になることがございまして……』 吉岡先の声は、どこか言いにくそうに濁っていた。
「気になること……ですか?」
『はい。今の午、みんなでお絵描きのを取ったんです。「わたしの族」というテーマで、好きなの絵を描いてもらったのですが……』
吉岡先の説によると、咲良はいつもなら、画用いっぱいに私と咲良のだけを笑顔で描くのだという。「パパとさくら」と、きくタイトルをつけて。 だが、今の咲良は違っていた。
『画用の真んに相原さんを描いた、咲良ちゃん、ずっとクレヨンを持ったまま固まってしまって……。その、画用のの隅っこに、のクレヨンで、もう、誰かの姿を描きしたんです』
「で……?」
『はい。顔のパーツが描かれていなくて、まるでのような、背のい女のの絵でした。私が「咲良ちゃん、これはだあれ?」と尋ねましたら……』
先が、瞬言葉を詰まらせた。 私の背筋を、たい氷の塊が滑り落ちていく。
『咲良ちゃん、「さくらを、だっこしてくれるひと」って、ぽつんと言ったんです』
階段の踊りのたい空気が、肺の奥まで入り込んでくるようだった。
『相原さん、ご庭で何か、お母様のお話をされたりしましたでしょうか? 咲良ちゃん、絵を描いた、そのののところをずっと指で撫でていて……「おなまえ、あるのかな」
って、寂しそうに呟いていたんです。普段の咲良ちゃんにはあまり見られないご様子でしたので、のため、お伝えしておこうといまして……』