"一度も抱かれなかった娘" 第12話
「……でも、あいつは咲良を置いていった」 私は最の防壁にしがみつくように、絞りすような声で反論した。 「どんな理由があろうと、あいつは子どもを置いてで逃げたんだ! 咲良を捨てたのは事実だ! 私が咲良を守ったんだ!」
『守った? 笑わせないでよ』 千の声が、氷のようにえ切った。 『あなたが奪ったのよ。自分が捨てられたという惨めな現実に耐えられなくて、「母親に捨てられたな娘」と「それを育てる派な父親」っていう都のいい物語をでっちげただけじゃない。咲良ちゃんに、母親がどれだけ自分をしていたかも教えずに、呪いのような言葉をも刷り込み続けて……本当に吐き気がするわ』
「おに……おに関係ない! もう話してくるな!」 私が叫び、受話器をフックに叩きつけようとした、その瞬だった。
『茜はね、、あなたに猶予をあげてたのよ』
千のその言が、受話器から鋭く響いた。 私のが、受話器ので止まった。
「……何だと?」
『のあの、茜は着の着のままで私のところに転がり込んできたわ。の裏を血だらけにして、狂ったように泣きながらね。警察にも相談しようとした。でも、おもなくて、夫から精神錯乱の扱いをされていて、親権を争う気力も体力も残っていなかった。だからあの子は、を隠すしかなかったの』
千の言葉のみが、じわりと私の喉を締め付ける。
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『茜はね、私にひとつの荷物を預けていったのよ』
「荷物……?」
『ええ。産に、あなたに見つからないように私の部に隠していた、茜の帳と、咲良ちゃんのために用していた作りの育児記。そして、あなた宛の婚届よ』
胃の底が、たく凍りついた。
『茜は言っていたわ。「もし俊さんが、咲良に本当のことを話して、まっとうに育ててくれているなら、私は名乗りない。でも、もし経っても、あのが咲良に『おは母親に捨てられた』って嘘をつき続けているなら……」』
千が、受話器の向こうで酷に告げた。
『「そのは、この帳を咲良ちゃんに直接渡してほしい」ってね』
「な……っ!」
『咲良ちゃん、もう歳よね。平仮名くらい読めるようになったかしら? 母親がどんないであの子の誕を待ち望んでいたか、帳にびっしりかれた文字を見たら、あの子、どううかしらね』
「やめろ……! 咲良にづくな!」 私は半狂乱になって叫んだ。 「咲良はおなんかに会わせない! 絶対に渡さないぞ!」
『、そっちにくわ』 千は私の叫を完全に無し、淡々と告げた。 『夕方、保育園のお迎えのに、正ので待ってる。逃げても無駄よ。咲良ちゃんに直接渡すか、あなたがそのに私から受け取って真実を話すか。自分で選びなさい』
プツッ、プツッ、プツッ……。
無慈なツーツーという切断音が、受話器から虚しく響いた。
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私はち尽くした。 全から血の気が引き、膝から崩れ落ちそうになるのを、キッチンの流し台にしがみついて耐えた。
。 千がやって来る。 あいつが残した、本当の記録を持って。
「パパ……?」
背から、怯えたような声がした。 振り返ると、廊の入りに咲良がっていた。 両で、胸元をぎゅっと押さえている。 その瞳には、今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。
「パパ……だれとおはなししてたの? ……さくら、また、なにかわるいことした?」
震えるさな声が、私の胸を鋭利な刃物のようにえぐった。 私は返事ができなかった。 ただ、張り詰めた沈黙ので、刻刻と迫る破滅の音だけが、の奥で激しく響き続けていた。
夜がけても、部の苦しい空気はしもれていなかった。
カーテンの隙から差し込むの朝が、リビングの散らかったテーブルをたく照らしていた。 私はもできないまま朝を迎えた。 目を閉じれば、昨夜の千の罵声が鼓膜の奥で蘇り、首筋にたい刃を当てられているような悪寒がるのだった。
——「あなたが奪ったのよ」 ——「咲良ちゃんに、呪いのような言葉をも刷り込み続けて……本当に吐き気がするわ」
違う。私は奪ったのではない。守ったのだ。 あの夜、私と母を拒絶し、庭を壊そうとしたのは茜の方だ。 私は壊れかけたと、残された幼い命を拾いげ、今まで必に育ててきた。