"一度も抱かれなかった娘" 第13話
そのどこにろめたいことがあるというのか。
自分にそう言い聞かせながら、私はキッチンで朝のパンをトースターに入れた。 チッ、チッ、チッというタイマーの械音が、異様なほどきくに障る。
バタバタという音はしなかった。 いつもなら、目を覚ますと同に寝のドアを勢いよくけ、「パパ、おはよー!」とびしてくるはずの咲良が、今朝は音もなくリビングの引き戸の隙から顔を覗かせていた。
「……咲良」 私が声をかけると、娘はびくりと肩をすくめた。 パジャマの裾を両でぎゅっと握りしめ、線を泳がせている。
「起きてたのか。おはよう。ほら、パンが焼けるぞ」 私は努めて普段通りの、優しい父親の声を作った。 角をげ、柔らかい笑みを張り付ける。
咲良はさく「……おはよう」と呟き、ゆっくりと卓の子に座った。 いつもなら真っ先に求めるイチゴジャムにもを伸ばさず、焼きたてのトーストのを、さな指先でちぎってはに運ぶ。 その仕があまりにも頼りなく、見ているこちらの胸がざらついた。
「咲良、どうした? まだ眠いのか?」 私が背からづき、いつものようにそのさな肩を抱きしめようと、両を伸ばした。
その瞬だった。
咲良のさな背が、目に見えて張った。 そして、私のが触れる直、滑り込むようにを縮め、子のでわずかにずさったのだ。
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私の両は、虚しく空を切った。
たい氷を、から浴びせられたような衝撃だった。 指先が微かに震える。 、咲良が私のスキンシップを拒んだことなど、度たりともなかった。 痛いも、しいも、嬉しいも、この子はいつも私の腕のにび込んできたはずだった。
「……咲良?」 私の声が、微かに掠れた。
咲良は子の背もたれに体を押し付けたまま、怯えたような、測るような瞳で私を見げていた。 その線は、昨まで自分を無条件に信じ切っていた娘のものではなかった。 目のにいるが、自分に何かきな嘘をついているのではないか——そう疑い始めたの、警戒に満ちた目だった。
「パパ……」 咲良のさな唇が、躊躇いがちにいた。
「なに?」
「……きょう、ほいくえん、いくの?」
「え? ああ、もちろんくよ。曜だからね」
「……そっか」 咲良はそれ以何も言わず、再び線をトーストに落とした。 そのさな胸ので、何が渦巻いているのかがに取るように分かった。
昨夜、私が話で鳴り散らしていた姿を、この子は見ていたのだ。 そして何より、あの「さくら」と刺繍されたガーゼハンカチ。 私が嘘をつき、取りげ、隠してしまったあの布のことを、咲良は片も忘れていないのだ。
着替えを済ませ、保育園の準備をするも、咲良の数は極端になかった。
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玄関でスニーカーを履く際、咲良は自分の通園リュックのファスナーを、何度も確かめるように指でなぞっていた。 昨の夜、私がプラスチックケースの奥底に封印したはずの、あのガーゼハンカチ。 まさか咲良が持っているはずはない。 それでも、娘のその挙のひとつひとつが、私の神経を容赦なく削り取っていった。
保育園へ向かう、咲良は私のを握ろうとしなかった。 私がを差しすと、咲良はリュックの肩紐を両でぎゅっと握りしめ、「あるけるもん」とさく言ってを向いた。 繋がれないのひらに、のぬるいだけが通り抜けていく。
保育園のので、咲良を担任の吉岡先に引き渡す。 「咲良ちゃん、おはよう! 今もいいお気だね」 先のるい声に、咲良はさくお辞儀をして教へ入っていった。 度も、振り返ることはなかった。
「相原さん」 吉岡先が、配そうな顔で私を呼び止めた。 「あの……咲良ちゃん、今朝はし元気がなさそうですが、おで何かありましたか?」
「いえ……し夜更かしをしてしまって、眠いんだといます。申し訳ありません、よろしくお願いします」 私はにをげ、逃げるように保育園をにした。
背に、たい汗が張り付いていた。
は、残酷なほど正確にんでいく。 千は昨夜、はっきりと告げた。
『夕方、保育園のお迎えのに、正ので待ってる』
絶対に、会わせるわけにはいかなかった。