"一度も抱かれなかった娘" 第14話
千が持っているという、茜の記。婚届。 あんなものを咲良の目のに突きつけられたら、私のは完全に終わる。 それだけではない。 保育園の正で千に騒がれでもしたら、所の保護者たちや保育士たちので、私は「妻を追い詰め、嘘をついて娘を囲い込んできた卑劣な男」として晒し者になる。 このに、私の居所はなくなる。
会社に着いても、業務など切に入らなかった。 パソコンのモニターを見つめながら、ので秒針の音ばかりを数えていた。 どうする。どうやって千を止める。
警察を呼ぶか? いや、民事介入だ。千が咲良に危害を加えるわけではない。ただ母親のを渡そうとするだけなら、警察に止める権限はない。 むしろ警察が介入すれば、の失踪の経緯を再び洗われることになる。
選択肢は、ひとつしかなかった。 千が保育園に来るに、咲良を連れすこと。 そして、千ときりで対峙し、あの荷物を力ずくで奪い取ることだ。
午。 私は司に「娘が急にをした」と嘘をつき、退の申請をした。 同僚たちの「お事に」「相原さんも無理しないでね」という同のこもった言葉が、皮肉の刃となって胸に突き刺さる。
駅のドラッグストアに寄り、えピタと解用のスポーツドリンクを買い、それらをレジ袋に入れて保育園へ向かった。
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午過ぎ。 まだ園児たちが昼寝から起き、おやつのを過ごしている静かな帯だった。
インターホンを押し、をけてもらう。 職員からてきた吉岡先が、驚いた顔で目を丸くした。
「相原さん? どうされたんですか、こんなにく」
「すみません、職にいるから胸騒ぎがして……。朝から咲良の様子がおかしかったので、児科に連れてこうといまして。退させてもよろしいでしょうか」 私は買ってきたドラッグストアの袋をし持ちげて見せた。
先は「まあ、そうだったんですね」と納得し、すぐに奥の教から咲良を連れてきてくれた。 咲良は、昼寝から起きたばかりのぼんやりとした顔で、リュックを背負って現れた。 私を見ると、驚いたように目を見張った。
「パパ……? まだ、おひるのおやつ、たべてないよ?」
「いいから、帰るぞ。病院にこう」 私は咲良の腕をしめに引き、靴を履かせた。 咲良の元がおぼつかないのを構う余裕もなく、先にに礼を言って、保育園をびした。
をた瞬、周囲を見回した。 まだ通りはまばらで、千の姿はない。 にった。 胸の奥で、ひどく浅い堵の息が漏れた。
を引かれてりで歩かされる咲良が、そうに私の顔を見げていた。 「パパ、さくら、おないよ? どこもいたくないよ?」
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「いいから、く歩きなさい」 苛ちを隠せない声がてしまった。 咲良はそれ以、何も言わなくなった。 ただ、さなで私のに懸命についてくる。そのさな息遣いが、私のに痛々しく響いた。
自宅のアパートに着き、玄関の鍵をけて咲良をに押し込んだ。 「洗いうがいをして、部で待ってなさい」
「パパは? びょういん、いかないの?」
「パパは、ちょっと事な用事があるんだ。すぐ戻る」 私はリビングのテレビをつけ、咲良が普段見ているアニメのチャンネルにわせた。 咲良をソファに座らせ、元にを入れたコップを置く。
「いいか、咲良。絶対に玄関の鍵をけちゃダメだぞ。誰が来ても、返事をしちゃいけない。パパは分で戻るから。いい子で待てるな?」
咲良は、膝のにリュックを置いたまま、無言で私を見つめていた。 その瞳の奥にあるい諦めのようなに、瞬が竦みそうになった。 だが、迷っているはなかった。
私は玄関をると、内側からではなく、側から鍵をしっかりと回した。 ガチャリ、といシリンダーの音が響く。 これで丈夫だ。咲良はから勝にられない。千が万がここへ来ても、のには入れない。
私は駅へ向かってりした。 ポケットので、スマートフォンが激しく震えていた。 画面を見ると、見らぬ携帯番号。
昨夜の千の番号だった。
通話ボタンをスワイプし、息を切らしながらに当てた。