"一度も抱かれなかった娘" 第17話
そして、すべてを奪ったのだ。
「……あなたは」 千の声が、震えていた。 りのあまり、その唇がに変していた。
「産を終えて、全がボロボロになって病に戻ってきた茜に、何をした?」
私の脳裏に、封印していたあの夜の景が、鮮血のように鮮やかに蘇る。
——「婚? シェルター? ふざけるなよ」
私は病のドアを閉め、青い顔で横たわる茜の枕元にちふさがった。 そして、茜の携帯話を彼女の目ので真っつに折り曲げ、財布から現と分証を抜き取ってポケットに突っ込んだ。
——「子どもを連れて逃げる気だったのか? の程をれよ。誰のおかげでこの病院に入院できたとってるんだ」
茜は泣き叫び、私の元に縋り付こうとした。 しかし、産の血と疲労で、ベッドからずり落ちてにいつくばることしかできなかった。
——「子どもは相原の跡取りだ。おのような裏切り者に指本触れさせるか」
私はナースステーションへき、夫の権限を使って母子同の申請を握りつぶした。 「妻は精神に異常をきたしている」「子どもを連れにしようとしている」と嘘百を並べて、児へのち入りを完全に禁止させた。
病に戻った私は、に突っ伏して震える茜を見ろし、酷に告げたのだ。
——「てきたければ、で今すぐてけ。
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ただし、この病院の敷から歩でもたら、度と子どもには会わせない。警察にも親族にも、おが育児ノイローゼで赤ん坊を捨てて逃げたと言いふらしてやる。おは、が子を捨てた鬼母としてきるんだ」
あのの、茜の絶望に染まった瞳。 気を失い、ただ声もなく涙を流し続けたあの顔。
それでも茜は、私が病をれた隙に、うようにして児へ向かったのだ。 度でいいから抱かせてほしいと、助産師たちに懇願した。 だが、私が警備員を呼んだことで、その最の希望すら無残に打ち砕かれた。
すべてを奪われ、元を証するものも、おも、靴すらも奪われ、赤ん坊にづくことすら許されず、異常者として拘束されそうになったあの夜。
茜は、逃げるしかなかったのだ。 たいがる夜ののへ、裸のまま、ひとつでびす以に、あの女には何の選択肢も残されていなかったのだ。
「……あ」 私のから、けない空気の抜けるような音が漏れた。
テーブルのに広げられた類。 茜の絶望が、文字文字、私の目を焼き焦がすように刻まれている。
私が、自分に言い聞かせてきた物語。 「妻に裏切られ、子どもを捨てられた、れで誠実な父親」。 それは、自分が妻に拒絶され、逃げられたという惨めな現実に耐えられず、自分を守るためだけにでっちげた、醜悪な嘘だった。
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私は、咲良を守ったのではない。 妻への復讐のために、咲良を質として奪い取ったのだ。 そして、その罪悪から逃れるために、歳の幼い娘に「おは母親に捨てられた」という毒を、毎毎、注ぎ込み続けてきたのだ。
「……茜は」 私は震える唇をかした。声が涙でぐしゃぐしゃに歪んでいた。 「茜は……今、どこにいるんだ……」
千は、軽蔑の極みのような目で私を見ろしていた。
「言うわけないでしょう。あなたのようなに、あの子の居所を教えるとう?」 千はテーブルの類を乱暴にかき集め、トートバッグのへ戻した。 「私はね、茜に頼まれたのよ。もしあなたがしでも反省して、咲良ちゃんに『お母さんはあなたをしていた』と伝えているなら、すべてを胸にしまっておくつもりだった。でも、あなたは相変わらずだった。あの助産師さんから連絡をもらって、あなたの嘘を聞いた、私は確信したわ。あなたはミリも変わっていない。自分のプライドのために、今も咲良ちゃんを呪い続けている」
千はちがった。 トレンチコートの裾を翻し、たく言い放った。
「来週、弁護士を通じて正式に申してをするわ。過のモラルハラスメントの証拠、そしてあの夜の病院での護記録。すべてを庭裁判所に提して、親権の変更と、咲良ちゃんとの面会交流を請求する。
覚悟なさい」
千が歩きろうとした。
「待て……! 待ってくれ!」